第22話 ちょっと待って!再び
「俺、米原さんじゃなくて、高野さんが好きです」
よく考えたら、三回も言う必要ない。
でも、高野さんの脳に情報が届いていない気がして、何度も言ってしまった。
案の定、高野さんは状況を理解できずに口をパクパクさせている。
「いや…加藤、それは…」
すみません。米原さんの新情報だけでも情報過多なのに。
「高野さんが俺のことなんとも思ってないのは知ってます。俺も何も期待していないし、高野さんも、何も気にしないでください」
鞄を持って、立ち上がった。
「じゃあ…お先に帰りますね」
背を向ける。歩き出す。
さすがに一緒に帰れないや。
これからもうメシ行けないな。
泊まりも、もう無いな。
思い切って言ったことに後悔はないけど、やっぱり恥ずかしいもんだなと思う。
「おい、ちょっと!」
高野さんがやっとまともな声を出した。
「ちょっと待って!」
叫んで俺を追いかけてきた。
何?今恥ずかしいから振り返れない。
「加藤!」
後ろから、腕を掴まれた。
「加藤、待って、行くな、ちょっと…今…何?」
「高野さん、俺、さすがに四回も言えません。帰ります」
手を振りほどこうとしたが、離してくれない。俺は振り返りもしないで言った。
「あの、もう…ちょっと、帰りたいんで…離してください」
語気が強かったせいか、高野さんの手が少し緩んだ。
「加藤…なんで?俺のこと…マジで?」
「…信じたくないんだったら、嘘ってことにしてくれていいです。その方が高野さんが都合が良いんだったら」
そう言って振り払ったら、高野さんの手が腕から離れて、でももう一度掴まれた。
「いやいや、違う、加藤、そのままでいい、嘘じゃなくて」
やっぱりパニックになってるな。
ちょっと可愛らしいなと思って、ちょっとだけ顔が見たくなって、俺は振り返った。
高野さん、なんか顔が真っ赤だ、と思った瞬間。
腕を強く引かれて抱き寄せられた。
「え!」
「加藤、俺も好きだから」
「はぁ?!」
「大学の時からずっとだから」
「ええッ!嘘だろ!」
今度はこっちが驚きすぎて高野さんを突き飛ばす。身体が離れた高野さんが、泣きそうな顔をして俺を見た。
「加藤、まさかさっきの告白、嘘?」
「嘘じゃないですよ。三回も言ったでしょ」
「じゃあなんで突き飛ばすんだよ」
「びっくりしたからです」
そう答えたら、高野さんがその場にしゃがみ込んだ。両手で顔を覆って呟いた。
「じゃあ、さっきの、ホントなんだな。何があったか知らないけど、俺、信じるぞ。後で違うって言うなよ」
こんな高野さん、見たこと無い。
いつも爽やかで気の利く良い先輩で大人の高野さん。
でも、もしかして目の前で小さくなっているこの姿が本当の高野さんなのかな。
実はずっと、好きでいてくれたのか。
高野さんが顔をあげて俺を見た。
「でもやっぱなんで?」
信じない人だなぁ。
「それはこっちが言いたい。なんで俺が好きなんですか」
「加藤は…加藤だから」
うーん、よく分からない。
仕方がないから、俺もその場にしゃがんだ。
俺が、高野さんのことを好きだって信じてもらいたい。
鞄を置いて、高野さんの頬を両手で挟んでキスをした。
ちょっと待って! 石井 至 @rk5
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