第3話 希望の花
こんなの嫌だった。
あたしが事故で足が不自由になるなんて。
そうなるぐらいなら、いっそのこと……。消えてしまった方がマシだ。
寒さとそうではない何かに震えながら、アリッサは雪の道を永遠と歩き続けていた。
頭の中が、この雪景色と同じように真っ白になる。
サクサク、サクサク。
ひたすらその足音だけを聞きながら。
サクサク、サクサク。
どこに向かっているのかも、わからないまま。
サクサク、サクサク。
自分の気持ちがグチャグチャに混ざる気持ち悪さを覚えながら。
サクサク、サクサク、
サクサク、サクサク……。
と、アリッサは足を止める。
「花……?」
オレンジ色だった。
雪の中から、ヒョコッと顔を出していたのだ。
まるで、太陽の光を閉じ込めたかのように、眩しかった。
茎は少し出ているだけで埋もれているし、こんなに小さい。
なのに少しも儚さは感じない。
そんな花を見ていると、その力強さが自分に流れ込んでくるみたいだった。
今のあたしは、この花に負けているんだ。
全てを諦め、投げやりに考えていた自分が恥ずかしかった。
けれど、これからなら勝てるかもしれない。
だってあたしは、もうそんな考え、捨てちゃったんだから。
いや、勝とう、絶対に。
弱いあたしと、勇気をくれた、この花に。
「まだ間に合うよね」
アリッサは元来た道を引き返した。
一瞬、見間違えかと思った。
でも、そうではない。
「アリッサ!! 戻ってきてくれたのね!!」
先ほどとは打って変わって、彼女は凛々しく見える。
「怖いけれど、受け入れるしかない。それに、やっぱり消えてしまいたくない」
決心してくれたんだ。良かった。
「ありがとう」
これでここもワタシも、アリッサ自身も救われる。
また毎日、アリッサのために働けるのだ。
鍵を手にしたアリッサは、ほんの少し表情を固くしたが、決心は揺るがない。
彼女が鍵を回した瞬間、強烈な光に目が眩む……。
今日も花畑は美しい。
アリッサのお陰で、すっかり雪は消えた。
花達はみんな、雪の下でこの瞬間を待ち望んでいたようだ。
日差しは優しく、噴水には絶えず水が流れていた。
アリッサは、ちゃんと現実と向き合っている。その姿はとても格好良かった。
けれどワタシの髪の毛は黒いまま。
――あの子の心の傷が完治していない証拠だ。
どんなに強く決心しても、そう簡単には自由に足を動かせないこと。
周りの人に心配をかけてしまっていること。
それがきっと、彼女の心に傷を作っている。
アリッサ自身も気付かないうちに。
心なしか、毎日明るい色へと変わり始めている気はするけれど。
そんなあの子の力になりたくて、ワタシは今日も水やりをする。
リハビリにめげず挑戦する彼女の姿が、水面に映しだされていた。
記憶の管理人 🌻さくらんぼ @kotokoto0815
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