Ep.43-3 終わる日々Ⅲ
8月23日 朱鷺山しぐれの手記より一部抜粋
二人のうちどちらが次の神になるのかは事前に話し合って決めていた。
片方に毒薬の入った二つの小瓶を、二人で一息に飲み干すのだ。どちらかがどちらかを結果的には殺す。けれど、あくまでフェアな死に方だ。
恐ろしい方法と思うかもしれないが、これまでの戦いに比べれば何と言うことはない、むしろ易し過ぎるとも言えるほどだ。
どちらかに重荷が任されることとなる。私は、もう覚悟を決めていた。いや、書くことで自分は覚悟が定まったのだ、無理やり自分を納得させたいのかもしれない。
少しだけ自分の事を書いておこう。私は次代の神を巡る戦いのなかで、一度も人を殺さなかった。野原をかける子ウサギのように、ただ、逃げ回っていただけだった。これは博愛精神とか平和主義とかそういう立派な理由ではなく、私は単に、怖かっただけなのだ。手を汚したのは彼だ。如月皐月という名の、臆病な私の騎士だ。
私はひょっとして、毒薬で彼を殺すのではないかと思っている。つまり、私がこれまで一度も人を殺さなかったのは、手を汚さなかったのは、最後の最後に最愛の彼を殺す、という皮肉な役割のためだったのではないか……。そんな予感がしている。
彼のいない世界。守ってくれる人が誰もいない、ひとりぼっちの世界で、私は生きていけるだろうか。私はそれに、耐えられるだろうか……。
ひとりだった時は人と別れる辛さが分からなかった。でも今はわかる。痛いほどわかる。
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