第六・六六章 「Desire/Disaster」

四十三節 「嚆矢」

Ep.43-1 終わる日々Ⅰ

 821 より一部抜粋



 気怠い目覚め。いい加減に夜遅くまで起きている悪習慣は改善したいものだけど、もうすぐ世界が終わるというのならそれくらいは許されてもいいはずだ。圧倒的な終わりの前では、もはや暦は無用の長物で、曜日も、時間も大した意味などなくなっていた。


 私が今こんな文章を書いているのは、散っていった者たちへのせめてもの償い、のようなものなのかもしれなかった。もう何もかもが手遅れで、終わってしまったことだけれど、電気が通っていて、空が明るいうちに、書けるだけ書いておこう。


 十二人の候補から次代の神を決める、戦いがあった。信じられないような話かもしれないが、ムー大陸やアンゴルモアの大王と違って、実際にあったのだ。


 長い戦いの末に、私と彼だけが残った。

 生真面目な剣士も、車椅子の病弱な少女も、融通の利かなさそうな男も、お調子者なアイドル歌手も……皆、死んだ。消えてしまった。


 歴史は後世の者が語るものだから、必然的に偏見や誤りが含まれると昔何かの本で読んだ。これは歴史ではなく、ただの個人的な遺書のようなものだけれど、結局は、私の視点から観た、捻じ曲げられた記録に過ぎない。もし世界が滅ばずに、何かの間違いで続いたとしたら、この文章は後世の人たちにとって有益な資料となってくれるだろうか。私にはただ祈ることしか出来ないけれど、もしそうなればとても嬉しい。

 

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