Desire/Disaster連載100話突破記念掌編

【特別掌編】かくて少女はアロマと出逢う

 皆、向こうでも元気ですか? 突然ですが私は今、アロマに夢中になっています。私が文章だと饒舌になるのはご存知でしょうから、今回は私とアロマとの出逢いについて存分に語りたいと思います。


 きっかけは些細なことでした。皆でよく行った商店街の雑貨店、覚えてますか? 今度あそこが閉店するみたいで、閉店間近バーゲンセールなんてものが開催されていたんです。特に買うものもなかったのですが、何処となくもの寂しさを覚えて、最後に一度入ってみようと思い立ちました。


 店主さんは今度結婚するみたいで、それを機に夢だった店を畳むことにしたそうです。夢を諦めちゃうんですか、と聞いたら、夢が変わったんだ、今はこれからの家族との生活の方が大事だから、と照れ臭そうに言っていました。何だか素敵ですよね、一つの夢が終わっても、また違う夢が見られちゃうなんて。


 私は折角だから何かひとつ買っていこうと思って、陳列棚を眺めました。色とりどりの雑貨が目を引きます。その中で私が手に取ったのは、薄紫のキャンドル型のお香でした。アロマなんてものを私はそこで初めて知ったのですが、手にすとんと収まるようにしっくりと来て、私はそのキャンドルアロマをレジへと持っていっていました。


 家に帰って早速焚いてみると、仄かで優しいラベンダーの香りが部屋にふわっと広がって、なんだかとてもいい心地です。でも少し、郷愁というのでしょうか、皆のことを思い出して泣きました。運命の出逢い、なんて大袈裟な表現は好きではありませんが、私は結果としてそれ以来アロマに魅せられました。ただ部屋の隅に置いて焚いておくだけでも雰囲気は出るのですが、アロマのタイプによってはディフューザーというものも使えます。部屋中に香り立つ芳香はリラックスに最適で、集中力も上がります。最近は読書をするときも焚いています。

 

 皆がいない生活は寂しいけれど、こうして皆に手紙を書く度にまだ皆がいた日々を思い出して辛くなるけれど、最近は「現実」というものと向き合っていかなきゃなとひしひしと感じています。現実逃避の時間はもう終わったんだなと思います。


 先日私も十五歳になりました。来年は高校受験、志望校は光桜女学院です。まだまだ判定は厳しいですが、アロマの力を借りて頑張ってみます。


 夏が終わったらまた手紙を書きます。辛くて悲しいことばかりかもしれないけれど、私は皆のいないこの世界で生きていきます。 



 家族へ


                三神麻里亜

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