二十三節 「顕現」
Ep.23‐1 再始動:十三人
「と、いうわけで、紹介しよう。彼が十三人目の悪魔憑き、
八代みかげの声が
僕の存在を知った悪魔憑きたちの反応は、やはり芳しいものではなかった。
「……何故、人数を追加した? 随分と適当な
「主催者、だからこそだよ。その時々の状況に応じて臨機応変にゲームを組み替えていく。それこそがボクの役目さ」
不満げに漏らす人馬宮に対し、みかげは悪びれることなくそう返した。
暫しの沈黙。皆、僕というイレギュラーを前にして考えあぐねているようだった。沈黙を破ったのは
「少々、疑問があるのだがね。現在は八月八日の夜。ゲームの残り日数は二週間と僅かだ。これまでの十日間で新たに脱落したのは二人。ペース配分的には、人数を増やしてはゲームが終わる見込みがないのではないかと、お節介ながら思ってしまってね」
魔羯宮は新たに空席となった二つの席、アリス――双魚宮と、成瀬――白羊宮の席を見、そう言った。
「それなら心配はないよ。終わるさ、ちゃんと終わるとも。十六日後、此処に立てるのはゲームに勝利したただ一人だけだよ」
みかげは自信たっぷりげにそう言い切り、僕たちを仰ぎ見た。
「初回から比べると君たちも随分口数が減ったねえ。となると、もう解ってきたのかな? 戦いの運命からは逃れられないことに。勝つのは唯一人だってことに」
「あたしはまだ……諦めていないわ」
葉月は僕の隣の席で、覚悟を決めたようにそう言い切った。
「ねえ、もう戦いなんてやめましょう? これ以上続けても、お互い不幸になるだけよ」
「いつになく弱弱しい物言いだね、
彼女の声は厳かに星の宮殿全体へ反響した。
「訊きたいことがある。お前たちの中で、神の座を望んでいる者は何人いる? 出来れば挙手して欲しい」
法条が徐にそんなことを切り出した。彼女の意図が掴めなかった。みかげからその場の主導権を奪うためだろうか?
皆、周囲を見回す。手を挙げたのは二人。
「争うのは嫌だけれど。なれるものなら、なってみたいわ」
処女宮はにこやかにそう告げた。
「言っておく。神になるのは俺だ。邪魔をするのなら容赦はしない。……もう、決めたことだからな」
処女宮はまだしも、人馬宮が? 正直なところ、意外だった。初回のイントロダクションの概要は葉月やしぐれから既に聞き及んでいたが、人馬宮は一貫して戦いにも神の座にも興味を示さなかったらしい。一体どのような心境の変化があったのだろうか?
「成程な、二人か。見たか、神様とやら。これがお前が画策したゲームの顛末だよ。血塗られた神の座に興味を示す者などごく僅かだ。これでは到底殺人ゲームなど成立しまい、残念だったな」
法条は挑発的にそう告げた。何故だろうか。今の発言は、法条らしくない。そんな気がした。
「ふーん、まあいいや。じゃあ、今回はこれでお開きね。人数が半分を割ったら、また集まってもらうよ。それじゃね」
僕が初参加となった二回目のイントロダクションは、多少の懸念を残しつつも、大した進展もなく幕を閉じた。
◇
星の宮殿から帰ってくると日付が変わっていて、八月九日。僕たち四人は法条の事務所に集い、今後採るべき行動を模索している最中だった。
アリスの死から、そして僕が記憶を取り戻してから三日。現状は何ら進展していなかった。皆が皆、摩天楼で繰り広げられた熾烈な戦闘で疲弊しきっていた。あの戦いから生還できたのは、言うなれば奇跡だった。アリスを助け出せていなかったら。葉月が法条の許に辿り着くのがもう少し遅れていたら。僕がアリスの死を引き金に記憶を取り戻せていなかったら。少しでも何処かで歯車がずれていたら、僕たちは全滅だった。
「とにかく、残りの契約者たちを一刻も早く探し出して交渉して、休戦を認めさせなきゃ。しぐれちゃんのラプラスの悪魔なら、契約者の居場所を炙り出すくらい簡単でしょう?」
「それは無茶だな。相手の出方が完全に解らない以上、こちらから動くのはまだ危うい。見に徹するべきだ。葉月君、解っているのか? 君と周の無策な特攻が、三日前の戦いを巻き起こしたんだぞ?」
「でもあの時は、ああするしかなくて……」
「解っている。だから今度こそは慎重に事を運ぶべきなんだ」
葉月と法条はこれからの方針について揉めていた。僕は二人を一度静止する。
「二人の意見はどちらも
「……そうだな、結論を少し急いていたかもしれん。それに賛成だ」
法条と葉月は大人しく引き下がった。お互いの情報を共有した結果、法条は魔羯宮と旧知であり、本名も知っているらしい。しぐれは先日の戦いで双児宮と人馬宮を補足した。記憶が一部不明瞭だが、二人とも能力は一部だが把握しているとのこと。よし、これだけ判明していれば――。
「あたしが倒したのは巨蟹宮か天蝎宮ね、どちらももういないから、参考には余りならないだろうけど」
葉月は溜息をついた。僕が巨蟹宮――麻里亜の悪魔だったことは、実はまだ葉月たちに話していない。自分が本当に人間でなくなってしまう気がして、悪魔に戻ってしまう気がして、何となく、話辛かった。
「そうなると、情報が全くないのは金牛宮と処女宮ですね」
しぐれが呟く。終始沈黙を保っていた金牛宮。朗らかな声で神になりたいと言った処女宮。一体どんな人物たちなのだろうか。
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