interlude: 鷺宮紗希の懊悩


 三度ベルを鳴らし、今日も誰も出ないことを確認し、鷺宮紗希さぎみやさきは深く嘆息した。

「麻里亜ちゃん……一体どうしたっていうんだ」

 紗希は電話帳から目当ての連絡先を見つけ、ダイヤルを回す。

「天城か? お前、ここ一週間近く麻里亜ちゃんと会ったか?」

期待していた返答は得られず、紗希は再度、深く嘆息した。


       ◇           


 数時間後、真琴と紗希は麻里亜のマンションの玄関口で落ち合った。言葉こそ交わさないものの、この先にある「現実」を予期するかのように、二人の表情は昏く翳りを含んでいた。

「開けるぞ」

 紗希が麻里亜の部屋を開ける。

 部屋の中に立ち込めていたのは鉄臭い匂い。紗希と真琴は顔を見合わせ、部屋の奥に立ち入る。

 ただベットの上の黒く乾いた血痕が、この場で発生した惨事を声高に物語っていた。

「マリ、ちゃん……」

 天城が崩れ落ちる。紗希は冷ややかに現場を見つめ、

「なあ天城。麻里亜ちゃんと同じ学校の生徒が、先日死体で見つかったの知ってるか」

「ニュースでやってましたよね。手口は今までと違い銃殺。凄い綺麗な子だったって……」

「ああ。霧崎道流きりさきみちるという子だ。そしてね、天城。麻里亜ちゃんと霧崎が失踪した丁度その日から数えて一週間、。あれだけ周到に、周期的に少女を殺していた犯人が、パタリと犯行を絶った」

「まさか……霧崎道流が?」

「その可能性もあるがな。私が言いたいのはだ」

 身内さえも疑いの対象とする紗希の冷徹さに、天城は身震いする。

「そんな、マリちゃんが? そんなのってないですよ。あの子は紗希さんの……。じゃあ、この血痕は?」

「まずはそれを調べないとな。いや、私は何を……あの子が死人より殺人鬼であった方がいいなんてな」

 そう言って紗希は顔を伏せた。頬を伝る二筋の涙。

「まさか、妹に続けて姪っ子までもいなくなるなんてね……本当、因果な人生だよ」

 天城には、かける言葉が見つからなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る