Ep.11‐2 最凶の敵
◇
「我が手ずから
少年は
「どういうこと……悪魔は人間に手出し出来ないんじゃないの……? それに、ベリアル、あなたの魔力感知は? この子は、一体何者?」
右腕を喪った葉月を襲っているのは、動揺よりも困惑だった。
「いや、そいつは人間だ……。人間だが、もう死んでいる」
「どういうこと?」
「悪魔に身体を喰われちまっているのさ。契約者だかその辺の人間を見繕ってきたのかは知らないが、悪趣味なこったぜ。俺の魔力感知に引っ掛からなかったのも、器自体は人間だからか」
ベリアルは吐き捨てるように言った。心底不快そうな様子で。
「ほう、三流悪魔の分際で吼えるではないか。いかにも。我が悪魔の能力は
「ふざけたことを……」
彼とまともに相対しているのは葉月とベリアルだけで、他の全員は「余計なことを口走ればそれが自分の最期の言葉になる」と理解していた。少年の態度はそれほどまでに自然に、「自分は他人より上」という風だった。まるで人間がアリの命を無意識に摘み取るように、この悪魔は自分たちの命をなんの容赦もなく奪う。そう誰もが実感していた。
「はあ、はあ……。待て、勝手に行くなと言っただろう」
少年から一足遅れて、高価なスーツに身を包んだ浅黒い男が姿を現した。
「ほう、やっと来たのか。
男は周囲を見回し、そしてある一点に目が釘付けになった。
「お前は……
法条と呼ばれた人物――――
「見れば解るだろう、
「な……」
「ほう、知り合いか? 奇妙な縁もあったものよな。こやつも殺して構わぬのか?」
「どんなことを企んでいるかは知らないがな、成瀬。この戦いはお前の手に余る。大人しく手を引け」
「は……はははは。誰に口を聞いていると思ってる? 私はそこの悪魔の契約者だぞ。私が一たび命じれば、貴様の五体などバラバラになるというのに……。法条、ここで出逢ったのも何かの縁だ。私に協力しろ。そうすればお前だけは見逃してやる。二人で神を目指そうじゃないか」
天秤宮は少し考えているような素振りを見せたものの、
「断る。私はそこの
とあっさり白羊宮の誘いをフイにした。
「つっ……。そうだ、お前はいつもそうだ。いつも私を否定する。くそっ、何故だ法条。なぜ私を認めてくれないのだ。命が惜しくないのか」
「かける命など私にはないよ。仕事をしている時以外の私など、もとから死んでいるようなものなのだからな」
その時、少年へと一条の光が迸った。
「皆、逃げて! ここはあたしが時間を稼ぐから! お願いだから、皆逃げて下さい!」
葉月は右腕の痛みを堪えながら必死に叫んだ。
その一言で皆が我に帰った。再度二人へ分裂し、一目散に林道へと逃げ出す
「しかし、君は……」
天秤宮は逡巡していたが、
「あたしのことはいいので、早く逃げて下さい。元はと言えばあたしの油断が招いた事態だから。自分で解決します」
との葉月の言葉を聞き、その場を離れた。
しぐれは恐怖で腰が抜けたのか、ただ
「ほう、わが身を犠牲に皆を逃がすか。その意気や良し。褒美として丹念に殺してやろう。そうだな、次は左足か」
「望むところよ」
葉月は再び、少年と相対する。勝ち目がないと知りながら。自分にできることは、皆がこの場から離脱するのに必要な時間を稼ぐことだけだと、誰よりも強く自覚しながら。
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