Ep.9‐2 桜杜自然公園にて(後編)
皆が皆、黙り込んだ。考えていたのは彼女の提案に乗るか乗らないか、だけではない。罠ではないかと考える者もいた。ただただ怯える者もいた。全員が集まる場で不意打ち、二、三人仕留める好機だと考える者もいた。最初から行く気などない者もいた。
だが、誰しもが、葉月の言った場所に心が向いていた。ゲームの初動は、そこに行かなければ解らない。いわば桜杜自然公園は最初の分岐点。ゲームの、勝敗の行く末を左右する第一の決定打。葉月の休戦協定に賛同しない者たちの心さえ、傾きかけていた。他の悪魔憑きの顔を一目見、寝首を掻く算段を練るだけでも、行く価値はある――――。
「私は、
「忘れたのかい? お姉さんは
と、双児宮。
「罠だ、罠に決まっている。行ってたまるものか。その女にみんな殺されるぞ」
白羊宮は怯え切っているのか、
「大の大人が情けないな。言わせておけ。君に非はない。礼を言おう、君のおかげで私は自分の使命を全うできそうだ」
天秤宮は葉月に理解を示したのか、少し嬉しそうに言った。
「そろそろお開きで良いかな、ボクはもう眠いんだ」
みかげは
「君たちに与えられた最初の試練は
以上が初回のイントロダクションの全容だった。
葉月の大立ち回りが、これから更なる波乱を巻き起こすことに、彼女はまだ気づいていなかった。
◇
葉月と周が家を出た所から時は少し遡って、七月三十一日、午後十時三十分。
深夜の桜杜自然公園中央広場に、ふたつの影があった。
一人は年端もいかぬ少女。右手には絵本を持っている。髪をおさげにして纏めており、愛くるしい服に身を包んだその姿は、穢れを知らぬ姫君を思わせる。彼女は双魚宮。傍らには彼女を守るかのように佇む少年の悪魔。
対するのは異形の人間だった。いや、彼は一人ではなかった。彼は腰のあたりでもう一人と繋がっている。シャム双生児――――結合双生児と呼ばれる、身体の一部を共有したタイプの珍しい双子である。紛れもなく、彼の
「来ると思っていたよ」
双児宮が言った。
「あのお姉さんの言うことが本気であれそうでないあれ、困るんだよね。折角手に入れた権能をさ、捨てるなんてとんでもないよ、君もそう思うだろう、双魚宮?」
「ええ、そうね。あたし、この能力のおかげでやっと友達が出来たのに、困っちゃうわ。また一人になるのはいや」
彼女は少し表情を曇らせて言った。
「そうだろう、だからさ、あの怖いお姉さんが来る前に戦おうじゃないか」
「受けて立つわ。ねえおかしなお兄さん。その隣にくっついているお人形さんはなに?」
途端に、双児宮が激した。
「姉さんを、人形って呼ぶな!」
「きゃあ、怖い、あはははは、おかしなお兄ちゃん。安心して、すぐに殺してあげる!」
右手に持った絵本をぱらぱらと広げ、彼女は唱える。
「
瞬間、彼女の持った絵本が光を放ち、ページが裂けた。その亀裂から現れたのは、一頭の
「いっけえ、消し炭にしちゃえ!」
竜の
「嘘、だよ、そんなのありえないよ」
炎が、炎のまま凍っていた。
双児宮は凍った炎を避けて、焦げ目一つないまま再び彼女の許へ姿を現していた。口許に勝ち誇ったような笑みを浮かべて。
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