Ep.8‐2 ウォーゲーム・ゾディアック(後編)
Ⅺの少年はゆっくりと言った。
「気付いている人間もいるだろう。十二人と言ったな。だがここには十人しかいない。これはどういうわけだ?」
「賢い君のことだ。とっくに気付いているんじゃないのかい」
神様は挑発するかのように言った。
「ああ……やはりそうなのか。平和的解決は望めそうにないな」
少年は嘆息した。
「ご明察の通り。ここにいない二名は、ゲーム開始前のチュートリアルですでに脱落した。ここにいる誰かの手によって死んだんだ。殺されたんだ」
ざわめきが起こる。私は口許を押さえ、恐る恐るどの席が空席かを確認した。空っぽなのは――ⅥとⅩ。
「それは、どなたか知りませんが気の毒なことですね」
Ⅳの席の少年がぼそりと呟いた。ボイスチェンジャーでも使っているのか、くぐもった聞き取りづらい声だ。
「えぇ、そうかなあ。Ⅵ番もⅩ番もそんなに早く死んじゃったってことは、それだけ弱かったってことでしょ。早めにいなくなっちゃって良かったんじゃないの」
恐ろしいことを無邪気な声で言ったのは、私の左隣のⅡの席にちょこんと座っている幼い女の子だった。年のほどは六から八くらいか。私は寒気を覚えた。
「どうかしているぞ、お前たち」
声を上げたのはⅨの席に佇む人だった。凛と通る声で、王様のような風格だった。
「殺人だのゲームとかおかしいとは思わないのか? 私が信ずるのは唯一つ、法のみだ。こんな下らない児戯などではない。私は降りる。その代わりに、お前たちの誰かが私を、私以外の誰かを傷つけるならば、全力で排除させてもらう」
Ⅴの席に座っていた、よくわからないシルエットの子供が応戦した。
「つまらない大人の理屈だね。Ⅸ番さん。僕たちは好きにやらせてもらうよ。だって、生き残れるのは一人だけなんだろ。殺される前に殺さなきゃ。これって正当防衛だよね」
違う。こんなのおかしい。私はⅫのおじさんに目で助けを送ったが、彼は議論の様子を興味深そうに眺めているだけだった。
「うん、取り込み中に済まないけど、主催者から少しいいかな」
ざわめきはパタリとやんだ。誰もが彼女に注目している。
「識別するのに何番さんじゃ不便だろう。だからね、君たちに別名を授けることにしたよ。数は十二だし、星座に因んだものが良いだろう。あ、
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅶ
Ⅷ
Ⅸ
Ⅺ
Ⅻ
設定された
「さてと、もう質問はないかな」
Ⅺ番、
「悪魔の強弱について聞きたい。俺の悪魔はどうやら最弱な部類なようでね。俺の権能も貧弱だし、こんなんでどうやって勝ち抜いたものやら」
「勝負は時の運さ。強い悪魔がずっと強いとは限らないし、その逆もしかりさ。君の悪魔だって相性次第では上位の悪魔と張り合える力を秘めているかもしれない。君の権能だって運用方法次第では絶大な力を発揮するかもしれない。それに、条件次第では契約を強化することだって出来るかもしれないよ」
「かもしれない、ばかりだな」
人馬宮は苦笑して言った。
「そう。かもしれない、ばかりさ。昔の偉い人も言ってたよ。『ただ一つ確かなことは、確かなことは何もないということである』ってね。勝負は何が起きるかわからないからこそ面白いのさ」
神様はそう言った後、
「えっと、そう言ったの誰だっけ。プ、プ、プラトン? プトレマイオス? プラエスティギアトレス? 最後のは悪魔か……」
と締まらない様子だった。
「プリニウスだろ」
人馬宮は呆れるように言った。
「そうそれ! 頭いいね君。案外、優勝候補は君かもだ」
彼女は
「さて、それでは今宵この場所で、
そう言って
「最後に一ついいかな」
今までずっと黙っていたⅦ番の女性……
「黙ってても仕方ないからこの際白状するわ。この場にいない二人のうち、一人を殺めたのはこのあたし」
罵倒と驚嘆が入り混じったどよめきが起こる。
「ほう、手を汚したことを自分から白状するとは。余裕の現われかな。それとも次の凶行への布石かい」
おじさん――
「あたしにも言い分はあるわ。あたしが殺した相手は――連続通り魔事件の犯人だった。襲い掛かってきたから倒しただけよ」
ヒュウ、と
「やるなあお姉さん。格好いい」
獅子宮は周りの反応を覗いながら言った。
「あたしは――もう誰も殺したくない。かといって殺されたくもない。だから、あたしはあなたたちの良心を信じて、この場で休戦協定を申し出るわ」
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