十三節 「同盟」
Ep.13‐1 戦いのあと(前編)
長い夢を見ていた気がする。いつ
少女の
これは、何だ――――?
これは、誰の記憶だ?
頭痛が酷い。今は、彼女を――――。
◇
「
身体が殆ど動かせないことに
「馬鹿な、一体何をした、法条」
「何、私の目の前で醜い争いはして欲しくないのでね。戦闘行為を禁じたまでだ」
成瀬は
法条暁の権能、『
「くっ、身体が動かない……くそっ、法条、お前は私と勝負すらしてくれないというのか!?」
成瀬は外聞も気にせず叫ぶ。
「私は争いごとは嫌いでね。かといって争いたがる人間を放っておくわけにもいくまい。だからこその、この能力さ」
法条の三体の悪魔、フリアエたちは法条と成瀬の上空をくるくると旋回している。
「さて、お前に引導を渡すのも悪くないが、生憎私になんの罪を犯していない人間を裁く権利はない。判断は彼女に仰ぐとしよう」
葉月がのっそりと立ち上がった。目に光はなく、ただ冷えた目線が成瀬を射抜く。
「ひっ……」
「ひとつ聞かせて。さっきあたしを襲ったのは、あなたの判断? それとも、あなたの悪魔の判断?」
葉月は冷ややかに尋ねる。
「私じゃない。悪魔の……」
「嘘だね。原則として悪魔は人間に命令されるか、戦闘行為に入ったとみなされるまで戦闘に参加できないんだ。暁、「嘘をついてはいけない」ってルールも敷いたら?」
メガイラが目敏く言った。眠そうに見えて、実は頭の回転は速いのかもしれない。
「そうだな。成瀬、隠し事はなしだ。正直に答えろ。お前は自分の悪魔に命じて私たち全員を殺そうとしたな?」
「……そう、そうだ。大体元はといえばお前たちが悪いんだぞ? 勝手にこんな戦いに巻き込んで……私は降りるといったのに!」
成瀬は怯えながら吐き捨てた。
「馬鹿な人間だな。一度悪魔と契約して参加を確定させたら、もう取り消しは効かないってのに」
ベリアルが呆れがちに侮蔑の視線を送る。
「葉月、分かってるな。あの時と同じだ、容赦はするな。お前は家族を、世界を守るんだろ。そのためにはこんな愚図は退場させといた方が後のためだ」
「うん」
葉月は成瀬の前に立った。彼女の影が成瀬の顔を黒く塗り潰す。
「戦闘行為は禁止だと……」
「ううん、これは戦闘行為じゃないよ。一方的な制裁行為だから」
葉月が微笑んで言った。ただの屁理屈と返す気力も今の成瀬にはなかった。一方成瀬の悪魔は主の窮地など素知らぬ顔で、にやにやと笑っている。この状況さえも楽しんでいるというのか。ベリアルは歯噛みした。あの悪魔、一体何を考えている?
「おかしい、言動が矛盾してる! 皆には戦闘をするな、もう誰も殺したくないからと宣っておきながら、私を殺すというのか!? こ、この人殺し女が! 約束を反故にする気か?」
「先に仕掛けたのはそっちだけど……何とでもどうぞ」
そう言って葉月は最後の一歩を詰めた。そしてゆっくりと呟く。
「……ごめんね。私に守れるものは、私が守りたいものだけなの」
そう言って葉月は
「やめろ――――!!」
葉月を羽交い絞めにし、成瀬から引きはがしたのは、
「あなた、なんでここに……」
三日前、如月葉月に拾われた少年だった。
周は葉月の手をそっと下に降ろさせ、
「駄目だ、人殺しなんて、絶対にしちゃ駄目なんだ」
涙ながらに葉月の両腕を抑えた。
「其の方、何者だ」
成瀬の悪魔が訝しげに
「僕は……人間です。あなたたちの戦いを止めに来ました。あなたたちが何をしているかは問わない。ただ、もう争いは辞めて欲しい。僕からの願いはただそれだけです」
「ふ、はは。人間? 人間だと? ふん……興が削がれた。今日のところはここまでにしておこう。命拾いしたな」
そう告げて、成瀬の悪魔は踵を返した。
「なっ……お前、動けたのか?」
ベリアルが驚きの声を上げる。
「忘れたのか? 我は人にして人に非ず。悪魔にして悪魔に非ず。そのような小癪な能力など効くはずもなかろう。ただ覚えておけ。次に我と会った時が、其の方らの最期だとな」
少年の姿のまま茫然自失の成瀬を抱え、悪魔は姿を消した。
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