Ep.4‐2 路地裏の戦い(後編)
月の光を
自らの契約者に予知情報を伝えようとしてアスタロトは
(これは……逃げ場が、どこにも、見当たらない?)
「行くわよ」
葉月がそう呟くと同時に、彼女の周囲の空気がどくん、と静かに
突如奪われた視界に戸惑い、立ち
「ふう、手加減したつもりだったけど、やっちゃったかな」
葉月は座りながら脚をさすって言った。
「いや、まだ死んでない。葉月、こいつはゲームと関係あるなしに危険だ、止めを刺せ」
彼女は少し逡巡していたが、意を決したように、
「うん、わかった。そうだよね、仕方ないよね」
ゆっくりと標的に近付いていった。
二体の悪魔は何も言わずに事の次第を見守る。葉月は少し声のトーンを落として言った。
「あたしにも下にあんたと同じくらいの子がいるけどさ、だからこそあんたのやったことは見逃せない。本当はこんなことしたくないけどさ、誰かがやらなきゃいけないなら、しょうがないよね。……ごめん」
葉月は竹刀を全力で殺人鬼の頭蓋へと振り下ろした。ごきん、と音がして、先ほどまで微かな呼吸音を見せていた
「よくやった葉月! これで後は十人だ。ゲーム開始前に仕留めるとは、やはりお前を選んで正解だったぜ」
ベリアルは彼女を讃えたが、葉月は冷ややかだった。
「別に、ただあたしは家族のためにどうしても負けるわけにはいかなかっただけ」
そうして殺人鬼の物言わぬ
「やあ、面白いものを見させて貰ったよ、お嬢さん。これは愉快だ。まさかあの通り魔をこんな細腕の女性が打倒するとは、いやはや驚嘆ものだ」
「誰、あなた」
この人物からどこか底知れぬものを感じ取って、葉月は敵意むき出しで聞いた。
「なに、ただの通りすがりだよ。ひとり夜の散歩と洒落込んでいたら、面白い対決が見られてとても満足だ」
男は心底面白がっているようだった。
「散歩なんて嘘ですね。現在この街は通り魔騒ぎの影響で夜に出歩く人間はほとんどいません。そんな中で出歩いているのは怖いもの知らずの愚か者か、余程の物好きか、通り魔本人か……後はゲーム開始まで我慢出来ない悪魔憑きぐらいのものでしょ」
「これは参った。なかなか賢しいお嬢さんだ」
「ふざけないでね、おじさん。あなたも、そうなんでしょ」
葉月は冷たく言った。その右手はバックの中の竹刀に伸びていた。
「だとしたら戦うかい? よしておいた方がいいお嬢さん」
くつくつと笑って男は言った。その傍らには
「君の権能は極めて強力だが、見たところ月の光に呼応して発動する能力のようだ」
月はいつしか厚く垂れこめた雲に
葉月は誰かが見ていることを考慮せず、切り札まで見せてしまった愚かさを恥じる。
「しかし僕の権能は戦闘向きではなくてね、出来ることなら戦いは避けたい」
押し黙る二組。
「僕からの頼みは一つ。その死体を引き渡して欲しい。少し調べたいことがあってね。それ以上のことはしない」
「葉月、どうする」
ベリアルは尋ねた。
「構わないわよ。じゃあ、あたしたちはこれで」
葉月はそう言って立ち去った。この男は、ゲームにおいて最大の
◇
一人残された男は死体に近寄り、ひしゃげた頭部からマスクをゆっくりと剥がした。
「やはり、そうだったか……。っ!?」
瞬間、有り得ないことが起こった。死体の目がしっかりと彼を捉えていたのである。それどころか、見る見るうちに零れた脳漿や折れた骨が元通りの場所に収まっていく。
男は絶句する。先ほどまで死体だったはずのモノは、ゆったりと上体を起こし、そうして
「ま、待て」
そんな必死の叫びもむなしく、ナイフは彼の胸にずぶりと突き刺さった。
◇
男が死んでいることを確認すると、殺人鬼は
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