数える前に

水原緋色

第1話


「知ってるか? この神社の階段は登るときと降りるときでは段数が違うんだ」


 声をかけたのは、ただの退屈しのぎだった。


 人が神や妖の類を見ることができなくなってきてから、はや百数十年。退屈を覚え始めるのにはいい頃合だった。

 そんなとき、俺が見えるという少年に出会い心が弾まぬはずがない。


 あんなことを言い出したのも、その一環で。

 少年は興味のないふりをしながらも好奇心旺盛な瞳を爛々と輝かせ俺の言葉に耳を傾ける。


「この階段の正確な数は俺だけが知っている。俺にこの階段の正確な数を伝えれば–––」


 少年は何度目かの初めての一歩を踏み出した。


 今度こそ数え間違えないでくれよ少年。そろそろこの遊びにも退屈し始めてきたからな。


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数える前に 水原緋色 @hiro_mizuhara

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