vs異世界犀

 扉ががしゃんと下りる。無機質な音が響く。

 先にいたのは、見たことのない動物だった。

 いや、昔、確か子供のころに見た、絶滅動物図鑑に載っていた「サイ」という生物に似ている。

 灰色でざらついた肌、小さな目、肌と同じ色の少し光っている角。

 ・・・いや、絶滅動物図鑑に載っていたサイは角が光っていなかったが、それ以外はそのサイに似ている。

 まず、イプシロンに

「戦闘実験のホームページから対戦相手のデータを出して」

 と呼びかけた。

 ちなみに、操縦者は、搭載しているAIに対し、言葉を発さずに会話することが可能だ。俗にテレパシーといわれるものであるが、感情ソウルリンクシステムの技術的問題で、”適合率”というのが高くないと使えないらしい。何がなんだかさっぱりだ。

 それはともかく、脳内に響いた答えは、残念なものだった。

『スミマセン、無線インターネットニツナグコトガデキマセン』

「代替手段は?」

『データヲ以前PDFデ保存シテオキマシタ』

「表示、ディスプレイ2」

『YES』

 目の前に表示された画面には、その生物の全体像と経歴、性格、能力などのデータが載っていた。公式ホームページの情報にしては多い気もしたが、それはどうでもいい。

 それによれば、なんと5センチもの皮膚を何枚も持つ巨大怪物と書かれていた。この文明のライフルの火力はわからないが、その強さは戦車に勝ったという記述からわかる。

 大きさはこの機体よりも少し小さい。重さは一桁分も違う。こちらのほうが10倍も重い。

 のしのしと歩くそれからは全く敵意を感じず、むしろ、こちらに全く興味を向けていないようにも見える(そのとおりなのだが)。

 こちらから攻撃しなければ相手は攻撃してこないという。逆に、攻撃すればそのパワーとスピードが生み出す高威力な突進攻撃を受けることになる。もっとも、強い攻撃でなければそもそも効かないそうだが。

 しかも、先述の分厚い皮膚に加え、”光結界”という、正面からの攻撃を防ぐ魔法障壁を備えているため、攻撃が通りづらいという。

 さて、こいつをどう調理したものか・・・。

 しかし、50mm散弾砲に、自作の、火薬入り砲弾を入れて発射すれば着弾によるダメージのほかに爆発によるダメージが加わるため、それなりに高ダメージが狙えることに気付いた。

 ちなみに、組織から支給された砲弾のほかに、自分が考案し、イプシロンに製作を手伝ってもらった自作砲弾で弾数を多くしている。その中にはこういった特殊砲弾も存在するのだ。

 とりあえず、火薬入り砲弾をセット。魔法障壁は正面だけと書かれていたため、体の側面を狙い、引き金を引いた。

 砲弾は、ゆっくりと動いていたサイの側面に当たり、爆発。すぐさまこちらに体を向けて突進してきた。

 よし、成功。思惑通り。

 サイの巨体は小回りが効かない。そのため、かわしてしまえば、サイは壁に突っ込んでしまう。

 サイは壁に正面衝突。件の魔法障壁のおかげで直接のダメージは受けていないようだが、衝撃は打ち消せなかったらしく、少しふらついている。

 ついでに、壁が大破壊されたため、戦闘フィールドが広がった。

 そして、まだふらついているサイに向けて、100mm重機関銃をぶちかます。機関銃とは名ばかりで、単発の超高威力大砲である。

 反動で機体が数メートル後ろに動く。飛んでいった砲弾はサイの尻に着弾。これも、いくつか混ぜ込んでいた特製砲弾のひとつだったらしく、

大爆発を起こした。

 反動による衝撃で節々が痛いが、その代わり効果は絶大。サイの尻の皮膚が数枚、吹き飛んだ。

 サイは、味わったことのない痛みに悶え、鳴いた。そのまま聞けば鼓膜が消えてなくなってしまうのではないかというような、大きくて、高くて、重くて、苦しい泣き声だった。

 イプシロンについているノイズキャンセラーのおかげで緩和されているものの、頭が少し重くなった。

 少しずつサイの傷が治っていっている。公式情報に載っていた”再生能力”のようだ。

 傷が治らないうちに散弾銃と指先マシンガンを連発。ついにサイは血を流した。そして、大型オリハルコンカッターを取り出し、サイに近づき、傷口をえぐり、広げていく。マシンガンを打ち込みながら。魔術的な防御も体力の減りにより、あまり発動しなくなった。

 だが、相手も負けてはいない。

 ふらふらとはなれていくサイをボクは撃ち続けた。しかし、サイは少しはなれたところから突進攻撃を仕掛けてきたのだ。ボクは、カウンターを仕掛けようとした。しかし、相手も、命が尽きない限り壊れない防御を持っていたことを忘れていた。

 ”光結界”である。

 ぶつかった。十分の一しか重量がないとは思えない、力強い攻撃。イプシロンの魔力障壁でもはじかれないどっしりとした体。ボクは、イプシロンに命令をする。

「イプシロン!魔力障壁、最大展開!」

『YES』

 最大出力の魔法障壁で、やっとサイが押され始めた。

 恐らく、魔力マナの代わりに体力を消費してこれを発動しているのだろう。サイについている傷が全く治っていない。

 出血によるダメージと、魔法障壁発動に使う体力消費が再生能力による体力の回復量を上回っているようだ。

 こうなれば、最後の一押しだ。一歩ずつ前に進む。サイを押していく。

 壁に着いた。それでもまだ押す。サイは傷口が刺激されたことで、さらにダメージを受けた。

 最後は、大型オリハルコンカッターで魔法障壁に対して全力攻撃。

 ついに光結界が壊れた。サイは角に刃を受けた。それは直らなかった。

 またもや、がしゃんという音が聞こえ、片方のドアが開く。

 戦闘は終了した。一気に気が抜けて、眠くなった。

「イプシロン、ちょっと寝て良いかな」

『ハイ、カマイマセン。イツモコウデスカラ』

「じゃあ、お休み」

 そうしてボクは眠った。

 そのときは、珍しく、気持ちよく眠れたのだった。

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