第58話
走り続けていると
「よう、お二人さん!お前さん方も無事だったか!」
「なんとか、な」
それから話を聞き出すとアイザックは今、蝿蛙の
「それでだ。悪いがチェーンソーとクーラーボックスを持ってきちゃくれねぇかい」
「
「
「そうね。できればケツを
「人生は助け合いだぞ。一人で何でもできるより、素直に誰かに頼れる奴のほうが
わかるような、それでいて認めたくないような理論に、カーディルは
「……長生きするわよ、あなた」
「ハンターにとって最高の
がはは、と
話が
アイザックは
「なんだって虫けらってやつは人間が攻撃してもその
その
「で、頼んでおいたもんはどうした?ライフルで首は落とせないだろ」
「ああ、そのことなんだが……」
ちらと横目で蝿蛙を見る。四散したとはいえ、首が
「この首、
アイザックの表情からさっと笑みが消え、固い
ミュータントを狩り、その首を落として賞金に換えるのがハンターだ。そう何度もお
前回は蠅蛙もキラーエイプもその首を持ち帰ることはできなかった。マルコにある程度の
「どういうことだ……?」
と、低く
視線だけを動かして周囲を見回す。場合によってはこのままディアスたちと
そんなアイザックの態度に、ディアスは腹をたてたりはしなかった。相手を
二人は手を伸ばせば届くような距離にいる。ディアスが担いでいるのは狙撃用のライフルであり、アイザックの義手にはショットガンが仕込まれている。体格差も
こうなるとアイザックも話くらいは最後まで聞かねばなるまい、という気になってきた。
むしろ二人の様子を戦車のカメラで
やがてディアスは、これも
「蝿蛙が肉食蝿に乗っ取られているという説を採用した場合、この頭には寄生虫が住み着くか、肉食蝿の卵がびっしりと植え付けられている可能性がある」
アイザックは、ウッと言葉に
肉食蝿のコロニーと化した生首を街へ持ち帰ればどうなるか、歴戦のハンターである彼には考えるまでもないことだった。巻き起こる
ミュータントではなく、人の手によって命を断たれるところまでが
通信機を通して話を聞いていたカーディルも、なるほどと頷いていた。もっとも、こちらはどこか余裕というか他人事である。こんなことにまで考えが
「さて、こいつをどうする?」
ディアスは蝿蛙とアイザックを
(この場面で俺に判断を丸投げするかぁ……?)
と、恨み言のひとつも言いたい気分であった。
未練がましく、蝿蛙の顔をじっと眺める。
今回の遠征の目的はバイクの回収と肉食蝿の調査であって、中型ミュータントを討伐したことは
かといって、せっかく倒したものを打ち捨てて行ける余裕などありはしなかった。中型ミュータントの賞金は高額である。
まず、ディアスたちと山分けして、その上で回収に付き合ってくれた
一気に支払わなければならないようなものでもない。生き残ることこそハンターの勝利であり
支払わなければその分マルコやディアスらに借りを作ることになり、
心配事を全回収できる方法が目の前に転がっているのだ。問題は蜘蛛の糸を
ディアス自身が何度も念を押したように、蝿蛙が肉食蝿に操られているとか、卵がびっしり植え付けられているのではないかというのは全て彼の仮説である。
後になって調べてみればまったくの的外れ、
いや、とアイザックは考え直した。こういった考え方は危険だ。借金に対する
今まで生き残ってこれたのもその
助け船は、意外な所から流れてきた。
「ちょっといいかな?ひとつ思い付いたんだけど……」
と、通信機からカーディルの声が聞こえた。
顔がいいだけの、いつもディアスのケツにくっついているアーパー女が何の用だと、アイザックは警戒していた。
「
「……どういうことでぇ?」
「でかい鍋にぶちこんで、強火でグッツグツ煮込んでさ、柔らかくなったら肉をナイフとかで
ミュータントの頭部を鍋で煮るとは
また何か
「俺は別に、あんたの
「いや、そんなつもりは……少ししかないが。お前さんが口を開く度に、見たくもない現実ってやつがボロボロ出てくるんだ。
「ついでに言えば、作業前と作業中、作業後の写真を撮って、なぜ肉を削ぎ落とすに至ったか
方針が決まると、その実現の為の具体策がすらすらと出てくるディアスであった。
「ついで、ってレベルじゃねぇぞ」
「頭蓋骨が綺麗に取れたら、博士が買い取りたいって言い出すかもねぇ」
「あり
通信機を通して、三人で笑いあったものである。つい先程、殺気を交えた空気を
「結果として皆で協力し、
「おう、ハッピーエンドってやつだな」
ところが、全然めでたくもなければハッピーでもなかった。
野営道具は一応揃っているが、蝿蛙の頭部がすっぽり入るほどの鍋など用意いているはずもなく、装甲車から
「ひでえ臭いだ」
「ミートサンドを思い出す」
「……なんでぇ、そりゃあ?」
ディアスとアイザックは鍋から数メートル離れて、火が弱くなれば息を止めて近づいて燃料を
「なぁ、別に肉を全部削ぎ落とさなくても、火を通せば蝿は全滅するんじゃねえの?」
「肉食蝿の卵が何℃で死ぬか知っているか?俺は知らん。知らない以上は確実な方法を取るしかあるまい」
「これで寄生虫だの卵だのが、全部ただの
「リスクを
愚痴と弱音は吐き出す
(とても
と、いったところで固まりつつあった。
だらだらと大量に汗が流れ落ちる。何度も水を飲むが、その水にも悪臭が染み込んでいるような気がして、顔をしかめながら飲んでいた。
煮崩れた肉を鉄パイプで突いて大まかに落とし、鍋から出して残った肉をナイフで削ぎ落とし、標本のような
すっかり疲れ果て
(やっぱり捨てていったほうがよかったんじゃないか……?)
と、途中で何度も考えたほどだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます