第55話
こいつは何を言っているんだ。アイザックはそう思わぬでもなかったが、よくよく考えれば自分だって常に真面目だったかといえばそんなことはない。
素直に従うのも
「良い方からにしてくれ。俺は気が弱いんだ」
「
「おぅっ」
カーディルの人物評価はともかく、愛用のバイクが盗まれていないという
荒野で
「そいつはグッドニュースだ、目的のひとつは
「当たらずとも遠からず、ってところかしらね……」
「遠くないのか!?やめてくれよ!」
「ジョークよ。ただ近くにミュータントの反応があるっていうだけ。何をやっているかは知らないけど」
「お前なぁ……」
敵に見つからぬよう車両を
あれから数日間も
まるで
そんなロマンチストの気持ちを知ってか知らずか、ディアスがバイクを見ながらいった。
「
「なぁ、そうだろう!?」
第三者から
「さて、あんたの
双眼鏡を構えたままゆっくりと首を振る。バイクから10メートルほど右に
相変わらず周囲には蝿が飛び交って体液を吸っている。
蝿蛙は時おり舌を伸ばして蝿を食い、またしばらくして食う、ということを繰り返していた。その動きはひどく
「なんというか、あれだな。休日に
「人間臭いミュータントもいたもんだ……」
ディアスはふと顔をあげて、周囲を見回した。何を探しているのか、その視線の先には
「はて、おかしいな……」
「何が?」
「ここにいる蝿は、あのミュータントにまとわりついている奴だけか?1万近い
「そういえばそうだな……」
蝿への対策としてわざわざ重い火炎放射器を引っ張って来たのだ。ここまで静かだと不思議を通り越して不気味である。
「まさかあのカエル野郎が全部食っちまったわけじゃなかろうな」
「どんな
もう一度、蝿蛙の様子を探る。
「
本当にこのバカ
「どちらがっ、て……食われてんじゃねえか、蝿」
「確かにぱっと見はそうだ。ただ、蛙の
「蛙のツラが?あの間抜けヅラがどうした」
「
考えをうまく言葉にできない、そんなもどかしさがあった。
「
「生きながらにして蝿どもの
「相手を支配したり卵を産みつけたりなんかは、虫の世界ではよくあることらしいぞ」
「エグいなぁ……」
「
そういったときだけ、ディアスの
(どういう人生を歩んできたんだこいつは……?)
何かがあった。気にはなるが、決して
自分にだって言いたくないことは山ほどある。長い間戦い続けてきたハンターならば誰だってそうだろう。
二人はしばらく無言で双眼鏡を構えていた。蝿蛙は未だに食事を続けている。いつから食べているのか、いつになったら終わるのか、それすらわからない。
蝿蛙のせいで死にそうな目にあった。
今はただ、
蝿に支配されているというのはあくまでディアスの
わかっている。わかっては、いるのだ。
「手ぇ、貸してくれるかい……?」
深い考えあってのことではない。自然と呟きが
「ああ、そのために俺たちはここにいる」
ディアスも当然だとばかりにハッキリと答えた。
双眼鏡から目を離し、二人は
巨大な義手と、固く握った右こぶしが、グッと打ち合わされる。
そして二人は背を向けて、お互いの車両に乗り込んだ。
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