第47話
結局、アイザックの義肢は包帯を巻いて隠すことにした。新しく義肢を買う金もなく、通常のものよりずっと重い武器内蔵型義肢を一人で
「できれば街の連中に見せびらかしたかったんだがなぁ……」
と、残念そうにため息をつくアイザックに、マルコは笑っていった。
「何を言っているんだ、見せびらかすなんてもったいないじゃないか。むしろ隠さなければならないのは、おいしいと思うべきだね」
「もったいない?」
「そうとも。その腕はさ、秘密兵器だ」
自信たっぷりに言うマルコ。
アイザックは感心したような顔をして、少し離れて座るディアスも
(なるほど、そうきたか……)
と、納得をしていた。
マルコの言いつけにより、アイザックの義肢に包帯を巻いたのは彼である。
カーディルのことなら義肢の取り替えから下の世話まで何であろうと喜んでやるが、
男のロマンならば仕方がないという、わかるような、よくわからないような理由によって。
「そして、いざというときはそのまま銃をブッ
「ロマンだなぁ……」
「あるいは、
「まさしくロマンだなぁ……」
わかる、と呟きながらアイザックは何度も頷いた。
「せっかくの義肢を包帯で隠すなんざダサイと思っていたが、そういうことなら仕方ねえ。博士のお
顔を見合わせにやりと笑う二人のロマンチスト。しかし、ディアスだけは正気に戻ったように冷めた顔をしていった。
「事情を知っている者からすれば、目の前で武器を振り回されているという点は何も解決していないよな」
鋭く
銃を突きつけられ、いつ撃たれるかもわからない。本人にその気が無くとも
盛り上がっているところに水を差され、
「わかった、わかったよ。工場の
「今はどうなんだ?」
「訓練場で撃ち尽くしてそのまんまだ」
ディアスはそれ以上の追及はしなかった。納得したというより特に解決策が思い付かなかっただけだが、とりあえずはこれで
話が一区切りついたと判断し、マルコは一枚のデータチップを取り出した。まるで面白い
「せっかく皆集まったんだからさ、この前の人馬討伐の映像、一緒に見ない?」
「へえ、そんなもんあるのかい」
「
話ながらディアスはマルコの背後にまわり、アイザックもそれに続いた。デスクに置かれたディスプレイに砂嵐が流れ、次いで真っ暗な画面が映った。
「おい、何も見えないぞ」
「慌てるなよ、これから照明弾を撃ち上げるところだ」
相変わらず画質は
「おお、これが人馬かぁ!本当に馬に手足が生えているよ、やたらと
気持ち悪い、グロテスクだとやけに嬉しそうに語るマルコであった。
「
「いや、あれ、俺だから」
倒れている自分自身を
それから戦車は人馬を街から引き剥がし、正面から
「西部劇だねぇ。抜きな、どっちが早いか試してやるぜ……ってやつかな」
「そんなロマンを感じる余裕はありませんでしたよ」
人馬を撃破し、二体目に乱入され、そして踏み潰すまでを一気に
誰もが無言で
「こうして見るとまた違った迫力があるな。できればもっと色んな角度から見たいものだ。いや、ハッキリと不満を言わせてもらうと俺の
「戦車が持ち上げられているときは
ディアスは
「あの時は本当に助かったよ。ただ、格好よかったと素直に言えるかどうか……。おっと、別に
「顔色?」
「画面を見てくれ、丁度カーディルがカメラをズームして様子を
ディアスが指差す先の画面に、剥き出しになった骨が痛々しい片腕の男が映る。
効果の薄まりつつある照明弾が照らすその顔は青黒く生気を感じさせない。
「正直なところ、もう助からないと思っていたよ。止血も痛み止めも、できる限り苦痛なく死ねるようにとの
「どうりでやけに親切な奴だと思っていたぜ……」
アイザックは怒るよりも呆れてしまった。画面の中の顔色の悪い男を見ていれば、そう判断するのも無理はないと我ながら納得してしまうのだ。
そこでふと、違和感を覚えた。先程からマルコがやけに静かなのだ。ここは手術の様子など語ってくれる場面ではなかろうか。
見ると彼は机に
「人馬を倒したのは正しい判断だったのかな……?」
部屋中に
「放っておけば被害は
「ありゃあ、中型のなかでもかなり
「安全な
「人馬が街の
全て正論である。そうとわかっていながらマルコは疑問を持たずにはいられなかった。背をあずけた
「この一件、議会の連中がどういったスタンスだったか、ディアスくんには話したよね」
「は、特に対策するでもなく様子見。
「ああん?なんだそりゃあ!?」
アイザックが不快げに叫ぶ。実際に戦った者からすれば、あの人馬を放置するなど
「今回の積極的討伐は議会の方針ではなく、君たちを含めごく一部の人間がやったものだ。さて、議会はこれをどう判断するか。なんだ、放っておいたら解決したじゃないか……。そんなとこだろうな」
「おいおい、議会のお
「議会で対応しなくても誰かがやってくれる。そういった前例を作ってしまったのは確かだね。重要性とか優先順位はだいぶ下がってしまったよ」
「もっと被害が出るのを待つべきだった、ということでしょうか?」
ディアスの
「そういった一面もあるというだけの話さ。その後のリスクを
どん、とアイザックの巨大な義肢が黒塗りの机を叩く。
「要するに議会の連中は危機感が足りねえんだ!あいつら一度でもミュータントを見たことがあるのか?」
「
「ミュータントと戦う現場に放り込んでやれ、そうすりゃ嫌でも目を覚ます!」
「いやぁ……
5年前、神経接続式戦車の最終調整について行き、犬蜘蛛に襲われたことを思い出してぶるりと身を震わせた。
ミュータントの
「それでは、議会にこの映像を見せたらどうですか?車載カメラで間近に撮った映像なら、望遠レンズの盗み撮りなんぞより、よほど
「いいアイディアだ。だがもう一声欲しいな。これ、素人には何が起こっているのかわからないからねぇ……」
権力者たちは安全な場所にいる時間があまりにも長すぎた。彼らにとって街の被害もミュータントも、数字の
少しでもいい、彼らにこれが現実の脅威だと危機感を持たせるにはどうすればよいか。そこでふと、アイザックの言葉を思い出した。
『もっと色んな角度から見たいものだな……』
これだ、とマルコは
「僕にいい考えがある」
なんだろうかと
「映画を撮ろう」
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