鉄腕の狩人
第46話
射撃訓練場にのそりと立つ大男。銃器を待たず、ただ右手を真っ直ぐ前に向けて標的を
荒野を
肩から伸びた
予備動作もなく、
(いいじゃないか……)
その男、アイザックの口元に満足げな笑みが浮かんだ。
カラカラと手動でチェーンを回す音がして、新たな標的が正面に来た。
撃つ、放つ、
カーディルの名は聞いていたし共に戦いもしたが、直接対面するのは今日が初めてであった。
ディアスが手を引いて歩く女を見たときは
(ほぅ……)
と、思わず
気品と
ディアスには悪いが二人並んでいると、美女と
(ディアスが
こうなると遊び慣れていない
どちらかといえばカーディルのほうがディアスの腕を抱き寄せたり、腕に
そんなじゃれあう
本物と
彼女はディアスに対しては
「あ、どうも」
と、何の
別に彼女とこの先、
「それで、義肢の使い心地はどうだい」
と、ディアスが真面目な声で聞き、アイザックは思考を中断した。
(女のことはまあいい。俺だって頼れる
にやりと笑って、手を開いたり握ったりして見せた。
「こいつはいいぞ……いいぞ!何て説明すりゃあいいのかな。手や足を動かすとき、誰だってさあやるぞって気合いを入れてから動かすわけじゃないだろう?ごく自然に、自然に動くわけだ。それと同じ感覚で銃をブッ放せるんだ、引き金を引く
これぞ男の自信の
「
「ああ、そいつはすごいな」
「腕を失ったんじゃない、ハンターとして進化したんだ。俺はマルコ博士の
「そう、か」
「手足のみならず、眼や耳だってそうだ。ハンターにとって
「ふぅん……」
熱く語るアイザックに対して、
「義肢を付けたままで街に出るのは止めたほうがいい」
「なんでだよ、
だんだんと腹がたってきた。こんなにも良いものを手に入れ、出来れば一緒に喜び盛り上がりたかった。それを目の前でいつまでも煮えきらない態度をとられたのではたまったものではない。
「あまりこういうことを言うべきではないかもしれないが……」
「じゃあ言うなよ」
「それもそうだな」
ディアスはあっさりと引き下がり、カーディルの手をとって訓練場を出ようとした。こうなると、アイザックもなにやら気味が悪いものが残ったままである。
「いや待て、ちょっと待て、気になるじゃないかやっぱり言ってくれ。お前さんはあれか、やる気がないなら帰れと言われたら
「自分の発言には責任を持つべきだ」
話しているうちにアイザックはこの男のことを少しだけ理解した。大真面目かつ、
「さて、何が問題かという話だったな。あんたの腕はいつでも素早く撃てるというのが
「おうよ、
「話している相手にとっては、常に銃を向けられているようなものだな」
「えぇ……?」
ディアスは腰の拳銃に手を伸ばしかけて、止めた。冗談や例えばなしで人に向けてよいものではない。代わりに指でL字形を作って向けた。
「こうやって銃を突きつけたまま話をするんだ。市場じゃ嫌われ、ハンターオフィスに行ったらたちまち銃撃戦になるかもしれない。いや、それはさすがに言い過ぎだとしても
「待て、俺は無差別に撃つつもりなんかないぞ?」
「それをどう他人に証明する?
「そんなことを言い出したらカーディルは、お前の女はどうなんだ!?ショットガンどころか戦車だぞ、戦車!」
「私、戦車に乗ったまま
「あ、はい……」
肩を落とし大きくため息をつく。人生最高のパートナーとまで思っていた義手が、今はやけに重く感じた。
「他人と違う姿や力を持つ者は差別されるものか……」
「差別じゃないわよ。街中で
「ディアス、ディアース!ちょっとこの女、
ディアスがちらと視線を送ると、カーディルは仕方がないとばかりに肩をすくめて一歩下がった。
「まったく、お前ら俺にどうしろっていうんだ……」
「日常生活用の義肢を別に買い求め、状況に応じて使い分けるべきだろう」
「正論だな。高い金を払って買った腕を付け替えなけりゃならんのが
「そういえばいくらしたんだ?見るからに高価そうではあるが」
ボソリ、と呟くその数字に、ディアスとカーディルは目を丸くして見合わせた。
「軽々しく替えろなどと言ってすまなかった」
「私も言い過ぎたわ。ごめんね……」
二人揃って素直に謝られることがよりいっそう
大きな体を小さく
余計なトラブルを避けるための
「そうだ、今度一緒に狩りに行かないか?」
「俺とお前らと、合同でってことか。うん、悪くないな、そりゃあ」
特に深い考えがあって言い出したわけではない。話題を変えるためと、アイザックを元気づけるために、ちょっとした思いつきを口にしただけだ。
なんら
そう気楽に考えていたのだが、その機会は以外に早くやってきた。
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