第41話
一面に
「
「ああ、そうだな」
何度目になるかわからぬほど繰り返してきたやり取り。ディアスとカーディルが深夜の張り込みを始めてから今夜で一週間。異常なし、としか表現できぬ夜が続いていた。
一度、まったく別のところにミュータントが現れたこともあった。
「博士の立てた
「予測は、あくまで予測さ。そう
しかし、いつまでも空振りが続けば
たとえ戦闘が起こらなくとも
「待つのもハンターの仕事、それは正しいわ。待つのがハンターの仕事ではないけどね!」
「明日にでも、博士を訪ねてみようか。このままでは
「そうね、対策を立て直すか、予測の
やるべきことが決まって少し安心したのか、カーディルはそれ以上の文句は言わなかった。
「あいつを倒さないと、また
カーディルが、どこか複雑な表情で呟く。
「……知っていたのか」
「私、
今でこそ
ただ、あの頃とは違う成長した部分も確かにあった。
少し前まで、ディアス以外の人間に興味など示さなかったカーディルである。
今は美しい義肢を得て自信を取り戻したのか、他人の心配をする余裕もできたのだろうか。誰かがミュータントに食われるというのであれば、できれば助けてやりたかった。
カーディルが精神的にも強くなったこと、それはディアスにとって
(
と、己を恥じるばかりである。
今夜もまた空振りだろうか。眠気覚ましだけを目的とした
「銃声、3時方向に5キロメートル!」
言い終わらぬうちに戦車は急発進した。
あちこちに体をぶつけ、壁に手をついてなんとかバランスを取り戻した後、ディアスは
ウィィンと
赤い眼をした巨大な馬だ。足の付け根から伸びるものは、人間の手足。
馬の足元、いや手元に男が一人倒れていた。
踏み潰されたのか、右腕が奇妙な方向にねじ曲がり、自らの血だまりに沈んでいる。
(手足の無い戦車女と、人の手足をもった馬の化け物。対決の
さらに加速して、ミュータントに迫る。
この距離ならば走りながらの狙撃、いわゆる
「ディアス、どうしたの!?」
「ダメだ、奴の後ろに民家がある!」
外れれば当然、
「え、ちょっ、どうしよう?」
「ぬぅ……」
二人に戦車に乗ったままの市街戦の経験などない。予想外の展開にしばし固まってしまった。
倒れた男はまだ息があるかもしれない。照明弾はいつか地に落ちる。時間制限という思考の
ディアスは視線が、後頭部に突き刺さるのを感じた。カーディルが不安げな目で見ているのだろう。
(こんなときこそ、俺がなんとかしなければ……)
ふと、壁に
(なんだ、こういう場面は一度経験があるじゃないか)
力強くライフルを掴む。その眼に、もう迷いはない。
「奴の100メートル先で止まってくれ!それと、いつでも逃げ出せるよう準備を!」
「え?逃げるの、戦うの?」
「両方だ!」
ハッチを開けて上半身を出し、ライフルを構える。スコープのなかに、今にも食事を始めようとするミュータントの姿を
「意中の相手をスマートに振り向かせる方法なんか知らないが、とりあえずブン殴っておけば無視はできんだろう……」
ライフルを構えた瞬間、ディアスの表情からあらゆる感情が抜け落ちた。冷たい視線が、
ミュータント特有の血の色に
必殺の弾丸がミュータント馬の頭部にめり込む、はずだった。突如として馬の姿が
「馬鹿な、
馬は消えたのではない。手足を折り曲げてその場に身を沈め、
殺気に燃える目で、ディアスたちの戦車を睨み付ける。1メートルはあろうかという長い舌を左右に降りながら這い進む。
どう見ても馬の歩き方ではない。
あまりにも
狙いをつけてもう一発。これは横っ飛びで避けられた。その一撃を合図に、馬は四つん這いのまま
これでいい。もっと遠くから狙撃することも可能であったが、
ディアスは素早く車内に身を
「出してくれ、広い所まで引き離すぞ!」
「せめて馬らしくしてよ、もぉ!」
蜘蛛嫌いのカーディルは背に這い回る
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