第36話
丸テーブルに置かれたカタログ。広げたページを押さえるディアス。カーディルはそれをじっと
美しく
だが、
「
ディアスの言葉に、カーディルは
「いつものようにミュータントの首を
「完済?あれ、終わるようなものだったんだ」
よくよく考えてみれば、5年間ミュータントを狩り続けていたのである。正確に数えてはいないが百以上の首を
生活の質があまり変わっていないので、
また、そうした思考は外部に対する無関心から来たものでもある。ディアスが
(ひょっとして私、人間性がかなり
今さらながら、そう思わざるを得なかった。
「それで、博士からカタログを渡されて、戦車の改造をしないか、趣味に金を使わないか、またローンを組んでやってもいいと、色々言われてね」
「あのオッサン、よほど私たちに借金を背負わせたいのね」
カーディルが少し
「金に追われていないと、俺たちがミュータント狩りをさぼるか辞めるかすると思っているんだろうな。一言、こういう実験に付き合ってほしい、こいつのデータを取ってきてほしいと言ってくれれば、いつでも喜んでやるのだが……」
何かと怪しげな人物である。性格に問題がないわけではない。
だが、今の生活がマルコあってのことであるのは事実であり、特に義理堅いディアスは強く
(俺の命はカーディルに
と、いうのがディアスの立場である。
カーディルがしばし考えた後、ぽつりと呟く。
「多分、理解できないのでしょうね」
「何が?」
「自分が
「ああ、そうかもしれないな」
人間関係に
「俺たちが金を欲していれば安心するというのであれば、そうしてやろうじゃないかと思うわけだよ」
「それにしても、これは……」
高すぎる。戦車以上とまではいかないが、四肢を合わせれば相当な金額だ。
戦車のローンを組んだときは、それしか生きる道がなかったからだ。安定した生活が見えた今、
しかも、その金がカーディルのためだけに使われるというのであればなおさらだ。
「ねえディアス、あなたは何かないわけ?趣味とか、お金があったらやりたいこととか」
今日はよく趣味ついて聞かれる日だ。苦笑しながら答えた。
「ハンターなんてやっている男の望みなんて、決まっているよ」
「それは?」
「強い戦車と、いい女」
あまりにも堂々と言われ、何も反論ができなかった。
そんな男が、物置小屋に押し込められ、不味いミートサンドを食わされる生活を送りながら、これで十分満たされているというのだ。
自分はこんなにも愛されているのかと、カーディルは感動に身を貫かれる思いであった。もっとも、今回に限って言えば不味いミートサンドを食わせたのは彼女であるが。
「答えは急いでいないから、ゆっくり考えるといい。新しい義肢を付けるもよし。他に金を貯めてやりたいことがあるならそれもよし。ある程度稼いでからハンターを辞めたっていい。博士には悪いがね」
安心させるよう、ディアスは優しく
「ただ、どんな道を選ぶにせよ、理由のなかに俺への
「私の望み通りにしていい、ってことね」
「そういうこと」
(私の望みは何か、そんなものは最初から決まっている。ずっとディアスと一緒にいたい。この生活を続けていきたい……)
明日にでも義肢を見に行こう。そう決めたが、まだ返事はしなかった。その前にやっておきたいことがある。
「義肢を外してくれる?」
そういって、左右のロボットアームを前に突き出した。ディアスは
慣れてきたとはいえ、神経接続式の義肢は脳に負担がかかる。そのため寝るときや、ゆっくり休みたいときは外すことにしているのだ。
以前、疲れて帰ってそのまま寝てしまい、朝になって
腕を外して、
作業がしやすいよう、カーディルは膝までしかない足を大きく広げた。スカートが短いので、こうすると下着が丸見えになる。
やりやすいようにしてくれるのはありがたいが、ここまで広げる必要があるのか。ディアスが顔をあげると、
「欲しいのでしょう?いい女が」
「ああ、欲しいね」
足の取り外しを終えると、ディアスはカーディルをベッドに横たえ
寝るとき以外にも、こうして抱かれるときは必ず義肢を外すことにしていた。女として扱われるときに、あれが自分の一部であるなどと見られたくはなかった。
ディアスの愛情に応え、カーディルの白い肌にじわりと汗が
手足が無いのでカーディルから何かをすることはできない。全てディアスのなすがままである。それがかえって彼女には
(私、この人のものになっているんだ……)
と、
ことが済んで、黒髪をベッドの上に
ディアスが濡れタオルで体を拭いてくれているのだ。
(こういうときは自分の手で抱き寄せてキスしたいわ……)
そんなことを考え微笑みながら、本格的な眠りに落ちた。
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