第35話
カーディルが逃げ込むように部屋に帰る。ディアスはまだ、戻っていなかった。
工場の
戦車と接続し、初戦闘をこなした後もしばらくは病室を家がわりに使っていたのだが、夜中にうるさいという
マントを脱ぎ、砂を払ってハンガーにかける。
ベッドに腰かけ、丸テーブルに置いた軽食の箱をぼんやりと眺める。
「なにやっているんだろう、私……」
あれだけ
自分は何もできない人間だ、などと言えば
だが、カーディルが欲する評価はそれとは別のところにある。
(戦車を操れる、それはあくまで兵器としての評価。私自身の価値はどうなんだろう……)
じっと手を見る。そこにあるのは三本爪のロボットアーム。
一人でいると思考が悪い方へ、悪い方へと転がり落ちる。これは愛する者を抱く資格のある腕なのか、いつかディアスに
また、涙が
足音が聞こえる。カーディルはびくりと身を震わせて体を起こした。5年前から周囲の物音には
すぐに
トン、トン、トーンとリズムを変えたノック。これもディアスが帰ってきたという
以前、ディアスはこれを忘れて銃を突きつけられたことがある。
「ただいま……」
「お帰りなさいッ!」
ディアスが言い終わるか終わらないかというタイミングで、カーディルが
カーディルの
ディアスの体が一瞬、ぐらりと揺れるが、この場面で倒れるのは少し格好悪い。男気の見せ所だとばかりになんとか
ロボットアームがディアスの背に回され、その場で固定されてしまった。
楽しげにディアスの胸に顔を埋めるカーディルの姿を見ていれば
手にはカタログ、肩にはライフル、正面から恋人ががっちりホールド。
(俺に、どうしろというのだ……?)
ふと、部屋を見回すとテーブルに小さな箱が乗っているのが見えた。ディアスの視線を追ったカーディルが、少しだけ気まずそうな顔をする。
「これは?」
「ええと……夕食。市場にね、行ってはみたんでけどね、どこにどういうお店があるのかよくわからなくて、
目を泳がせながら、まるで初めてのおつかいに失敗した子供のようだと思いながら
「
何が起きたのか、今どういった気持ちなのか、ある程度の
腕が回された背、そこに固いものが当たる
「あなたも何か、お
「これかい?マルコ博士の所でもらった製品カタログさ」
話しながら椅子に座り、テーブルを引き寄せミートサンドを
無言で冷蔵庫を開けて、果汁0パーセント合成オレンジ風ジュースを取り出し、コップを二つテーブルに並べた。
こいつで流し込め、という意味なのだろう。そこまで
おススメに
「ひとつ、相談があるのだが……」
と、言い出した。
カーディルは思わず
「他に女ができたっていう話なら、そいつをブチ殺すわ」
「世界一いい女と付き合っているのに
「んっふふ……あなたのそういうところ、本当に好き」
カーディルは満足げな顔をして、少し恥ずかしそうに目を逸らすディアスを眺めていた。
彼は本来、異性に対して器用なタイプではない。好きとか愛しているとか、そうしたことを口にするのに恥ずかしさを感じている。
それでもなお、カーディルを喜ばせるためならばと頑張って口にする姿に
(そういうところも
ひとり
「それで、相談ってなに?」
悪い話ではなさそうだと感じて、安心して話を
ディアスはカタログを開き、目当てのページを見つけてカーディルの方へと向けた。
「新しい腕、欲しくはないか?」
「……んん?」
あまりにも
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