第34話
彼女の
美しさを
5年前、手足を失いディアスに
街の連中は、ひとをそんな目で見ていたことすら覚えていないだろう。問い詰められたって答えられないだろう。やられた方だけが覚えている。
一人で街に出歩けるようになったのはつい最近のことだ。義肢によって歩けるようにはなったが、街に出たいとも思わなかった。
リハビリがてらの散歩は工場の
赤の他人から、もっと積極的に社会に関わらねばいけないと言われたことは何度かある。
だが、親しい人間、特にディアスとマルコからそのようなことを言われたことは一度もない。ディアスはカーディルの
こうして一人で出歩こうと思い立ったのも、別に何かやりたいことがあったわけではない。
狩りが終わった後、工場での整備依頼やハンターオフィスでの賞金の受取りなどはディアスに任せきりであり、カーディルはいつも先に部屋に戻って休んでいた。
この待ち時間が、長い。
「君は戦車との神経接続で負担が大きいのだから、休むのも仕事だ。先に休むことに
ディアスはそう言ってくれたが、狩りの後で疲れているのは彼とて同じだろう。せめて
市場に来て数分で、すでにめげそうだった。吐き気がする、頭がくらくらする。それは直射日光のせいではなく、義肢の接続がうまくいっていないわけでもない。
他人の存在、視線が彼女の心を乱しているのだ。もう限界だ。このままでは吐くか倒れるかしてしまいそうだ。
左右を見回して、手近な店の中年女性の店員に声をかけた。ただの買い物だが、男性店員に声をかける気にはならなかった。
「はい、いらっしゃい」
返事をされて、さてどうしたものかと
マジックペンで書いた、手書きの太文字が視界に入る。
おいしいミートサンド。
しまった、とカーディルは心のなかで舌打ちした。こういう所で売っている合成肉の軽食はだいたい
だが、今さら店を代えて歩き回る気にもなれず、
「これ、二つください」
マントの
それは
非の打ち所がない、誰もが目を見張る美女がこんなにも
店員が何か言おうとしている。この先何を言われるのか手に取るようにわかった。
あら、大変ねえ。でも
本人は親切だと思い込んでいる自己満足に付き合わされるなど、冗談ではない。
そんな空気に耐えられず、クレジットを長テーブルに叩きつけて、箱を二つ取ってその場を立ち去った。
「あ、ちょっと……」
後ろから声をかけられるが、それは無視した。金はぴったりだ、文句を言われる筋合いはない。
あまりにも惨めな気分だった。涙が
別れてから一時間も経っていないが、今はただ、ディアスに会いたい。
弁当を抱えて鉄の足音を立てて小走りに去る美女は、やはり注目の的であった。
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