機械仕掛けの抱擁
第31話
5年間の戦いの日々。それは誰よりも
昔から体だけは
この街一番の兵器工場。その所長室で
戦車の修理や改善。ミュータントの
互いに様々な
「戦車の支払いが完了、ですか……」
借金など無いほうがいい、当然のことだ。
ただ、全く意識していなかったので急にそんなことを言われても、というのが正直な感想である。目標がいきなり消えたようなものだ。
そもそも、ローンが残っていようがいまいがやるべきことは変わらない。戦車に乗って、ミュータントを狩る。それだけであり、今さら他の生き方はできない。
特に、彼の恋人であり
一方、マルコにしても彼の借金完済は都合の悪い話であった。これでディアスたちがいきなりハンター
今までは狩りと
ディアスたちが持ち帰る実戦データによって、マルコの
当初の予定では、借金を
マルコを中心として機関銃を腕に仕込んだ者や、足にタイヤを付けた者、そして戦車と一体化した者などなど、
実際のところ、あまり売れてはいない。神経接続式義肢は高価な買い物である。
そんな高額な取引で
「あなたは貧乏人の気持ちがわかっていない」
ディアスからも、そうハッキリ言われたことがある。
特殊義肢を広めるために必要なものは、コストダウンした上での量産体制の確立。そして、特殊義肢はこんなにも強いのだと
研究と宣伝、二つの意味でまだ彼らを手放すわけにはいかない。
「これからどうするか、迷っているのかい?」
「恥ずかしながら、そういうことです。あ、そうだ。いい機会だからカーディルと一緒にしばらくのんびり暮らすのもいいですね。散歩して、買い物をして、映画を見に行って……」
よくねえよ、とマルコは心中で
「ディアスくん、君は何か
できれば金のかかる趣味だぞ、と願うがそれはあっさりと
「ライフルの
(オゥ、ジーザス……ッ)
マルコはろくに信じてもいない神を呪った。若者が趣味を聞かれて返す言葉がそれかよ、と。
酒は飲むか、薬はやっているかと聞くと、酒に興味はなく、薬は痛み止め目的以外で使ったことはないという。
女遊びはどうか、と聞こうとして止めた。質問するだけ時間のムダだ。
「家に帰ってライフルだけ
「そうですね、あとは……」
少し、考えた。迷っているというより、言葉を選んでいるようだ。
「キャベツ畑を
「そういう頭の悪いフレーズ、嫌いじゃないよ」
要するにこいつはライフルとセックスだけが人生だと言い放ったのだ。
趣味の面から金を使わせることを
「戦車の改造はどうかな。武装を強化したいって思うことはないかい?」
「あれはいい戦車です。不満はありません」
嬉しいことを言ってくれるが、今聞きたいのはそんな
「対空ミサイルランチャーなんかお
ディアスは無言で首を振った。この地方に飛行する中型ミュータントはいない。小型ならライフルで落とせる。
あまりにもマルコが熱心に勧めるので、一応の義理としてカタログをパラパラとめくっていたディアスの手が、ピタリと止まった。
「博士、もう一度借金を申し込むことは、可能でしょうか……?」
「お、何かいいものあったかい?相談に乗るよ」
ディアスは広げたカタログをデスクに置き、ひっくり返してマルコに向ける。指差したページは日常生活用の義肢。
最新式の五本指、白く
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