第30話
ディアスは研究チームの装甲トラックへと通信を
「博士、奴を始末しました。もう外に出ても大丈夫です」
「奴というと……犬蜘蛛かい?」
マルコの疲れたような、
この状況で犬蜘蛛以外の何だというのか、マルコ博士らしくもない。そう思ったが、ディアスは相手に合わせて繰り返した。
「はい、犬蜘蛛です。
マルコの後方から、どよめく声が聞こえる。
彼らにしてみればトラックを体当たりで
そんな化け物を、あっさりと
「わかった。今からそっちに行くから案内してくれるかい」
研究員たちにいくつか指示を出し、工場に
その姿に、ディアスは少しだけ驚いた。汗で髪がぐしゃぐしゃに乱れ、
いつも余裕たっぷりで、
犬蜘蛛に襲われ、ただ
「僕はね、兵器開発に関わっていながら、ミュータントを見るのは初めてだっだんだ。どんな奴に向けるかも知らずに銃だけ作って満足していただなんて、
ぽつり、ぽつりと語り出すマルコ。そこには自信や余裕、
「今日、生き延びたじゃないですか」
落ち込んだままのマルコを見て、ディアスは話題を変えることにした。
「そちらの被害はどうです?研究員の皆さんは無事ですか?」
「ああ、人的被害は
くくっと
「トラックの運転手が気絶していたのは不幸中の幸いだね。目を
良かったとは言いつつも、その言葉の中には、
対して、ディアスは本心からほっと胸を
研究員たちの
装甲トラックのある位置から戦車で数分、そこに犬蜘蛛の死体がある。歩いても行けるような距離だが、
犬蜘蛛の死体、もはや
マルコは無惨な死体を見て、息を
「これはまた
一目で理解した。これは、口のなかに砲弾を突っ込んだのだと。
「……開いていましたので」
感情のない声でディアスが答える。彼は義理人情に
チャンスがあったから、撃った。
(こいつもどこか壊れているな……)
と、感じていた。悪い気はしない。それでこそハンターであり、優秀な実験材料だ。
しばし、二人は犬蜘蛛の
その口元を手で
それも全て、あることに気がついたからだ。
「これ、君たちがやったんだよね?」
上ずった声で、またしてもわかりきったことを聞いた。
(ディアスくん、どう答える?いや、わかっているさ。
「全て、マルコ博士の与えてくれた戦車の力によるものです」
よくぞ言ってくれた。
当たり前のことだが、犬蜘蛛は戦車を使って倒したのであり、その戦車を造ったのは自分たちなのだ。
敵に対応できなかったからといって、それがなんだというのか。ミュータント狩りの専門家であるディアスたちと比べること自体が間違っている。
ついさきほどまで、研究員たちの来月の給与をどうしてくれようかと考えていたが、それは全て
むしろ今回、本物のミュータントと
そして、兵器の力を
実験は終わった、じゃあ
この半年の付き合いでディアスという男のことを少しは理解したつもりだ。無理に
「ディアスくん、あの戦車だが……君に
「え?戦車を、ですか?」
ディアスが驚くのも無理もない。戦車は全てのハンターたちにとっての
実験が終わった後も乗ることができるとは思ってもみなかった。
「もちろん、無料でどうぞというわけにはいかない。お金は取るよ、ローンでいいけどね」
さらに驚きが追加された。ハンターは常に死の危険と隣り合わせであり、今日金を貸した、明日には死んでいるかもしれない、そういった人種だ。
よほどの信頼と実積がなければ借金などできはしない。社会的信用はそこらの野犬と同じ程度しかないのだ。
その点を伝えると、マルコは笑っていった。
「君がカーディルくんを残して死ぬとはとても思えないな」
その点についてだけは、ディアスも自信がある。力強く頷いて、同意した。
「お
マルコはその申し出を
許しを与えることでわずかでも恩を売れるならそれでよし、だ。
これで全ての条件が整った。金を返し終わるまで彼らは必死にミュータントと戦い続け、実戦データを持ち帰ってくれるだろう。メンテナンスができるのも自分しかいない。
助けた命、助けを求めた相手に、彼は
小走りで戦車に乗りこむディアスの背を、マルコはほくそ笑んで見送っていた。
それから5年、ミュータントを何十体、何百体と狩り続けた。失敗もあった。何度も死にかけた。戦車は7回ほど大破した。
信頼と愛情に一片の揺らぎも無く、二人は生き延びた。
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