第25話

 工場の敷地内しきちない簡易病棟かんいびょうとうがあり、手術室と病室が用意されていた。ハンターのあらゆる要望ようぼうこたえる施設しせつという肩書かたがきにいつわりは無いようだ。


 狩りのさいつね泰然たいぜんかまえているディアスも、カーディルの手術がせまるとひどく落ち着かない様子で、意味もなく立ち上がったり座ったりとかえしていた。


 そんな彼の様子をマルコは面白そうにながめていたものだが、次第しだいあわれに感じたか、はげますように言ったものだ。


「接続ユニットの取り付けなんて盲腸もうちょうの手術よりも簡単さ。失敗のしようがない」


「そういうものですか……」


「目をつぶってもできる」


「いや、さすがに目は開けてください」


 冗談じょうだんはさておき、マルコの腕は本人が天才と豪語ごうごするだけに確かなものであった。こうした手術にれているのか、左腕の切断、右腕の切り詰め、四肢ししへの接続ユニットの取り付けと次々にこなして一時間ほどしかからなかった。


 さらに三時間ほどで麻酔ますいが切れて、カーディルは目を覚まし面会が許された。


 不安と期待を胸に病室へ入ると、カーディルは毛布を肩にかけ、ぼんやりとベッドに腰かけていた。そう、座っているのだ。手があり、足がある。


 ディアスの姿に気づくと、カーディルは恥じ入るように目をらし、毛布を引き寄せた。


 何事だろうかと近付き、そして毛布の隙間すきまからのぞくものに愕然がくぜんとした。指先が、人間のそれとは似ても似つかぬ銀色の三本爪だ。


 脚は先のとがった三角形から鉄の棒が伸びて、ところどころにコードがっている。人体の機能をできる限りデフォルメして、しにしたような代物しろものである。


 手も脚も、義肢ぎしというよりは工業用ロボットアームと呼ぶのが相応ふさわしい。それが美女のかたひざから伸びている姿はあわれであり、滑稽こっけいでもあり、残酷ざんこくであった。


「ねえ、ディアス……」


 カーディルが、かすれた声でつぶやいた。


「私のこと、好き?」


「愛しているよ」


 先程さきほど動揺どうようなど微塵みじんも見せぬハッキリとした答え。当然だ、これだけは決してるがない。


「あなたは優しいから、すぐにそういうことを言うけれど……ッ」


 ディアスにろうと立ち上がるが、動きに慣れていないためか、途中でがくりと膝が折れる。その体を、ディアスが抱き止めた。


 しばし、無言で抱き合う二人。


「私、あなたに支えられてばかりね……」


「君がいなければ、俺は立ってはいられなかった」


 カーディルの体を持ち上げて、ゆっくりとベッドに下ろす。正直なところ、とても重い。だがそんなことはおくびにも出さぬディアスであった。


「ありがとう、少し落ち着いたわ」


「そいつはよかった」


 ディアスもベッドに腰かけると、カーディルはごく自然な流れでもたれかかってその身を預けた。


「博士が言うにはね、しばらくこれを動かす練習をしなけりゃいけないって。リハビリみたいなものね。この手足が自分のものだって、頭に教え込まなきゃならないのよ。これが、自分の手足だって……」


 三本爪がカチカチとらされる。その音はどこかさびしげに聞こえた。


「それが終れば次は……」


「戦車、か」


 少しの間、考え込む二人。そして口をそろえて吐き出すようにいった。


「戦車かぁ……」

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