第23話

 工場で用意された車イスにカーディルを乗せて、ディアスがそれを押して歩く。点滴てんてきまでついた大がかりなものだ。


 できれば寝かせておくべきなのだろうが、ディアスと片時かたときはなれれたくないこと、これから何が起こるのか知っておきたいという本人の希望によりこうして一緒に動いている。


 先頭を歩き、工場内を案内するマルコは上機嫌だ。


「神経接続式の義肢ぎしというのは……」


 不安と後悔で脳内にもやがかかったようにぼんやりとしている。だが、これからのことを考えればほうけている場合ではない。ディアスは気合いを入れ直してマルコの説明に耳をかたむけた。


「肉体の切断面に専用のソケットを取り付ける手術をほどこし、義肢と接続し、脳波のうは自在じざいに操る技術なのだか、さてここでひとつの疑問がこる」


 マルコは白衣のすそひるがえし、くるりと振り向いた。


「それでは、義肢以外のものを接続した場合、動かすことができるかということだ。どうおもうね?」


「それは、できる……と、思います。理論上は」


「ほほう、なぜそう思うのかな」


「義肢だって厳密げんみつに言えば腕ではありません」


「ははっ、わかっているじゃあないか。そうとも、義肢といってもそれはただのマニュピレータだ、ロボットアームだ。生体せいたいには程遠ほどとおいものを無理くり動かしているにすぎない」


 演説が続くうちに興奮こうふんしたのか、マルコは鼻息はないきあらくしてベルトコンベアに流れるマシンガンを鷲掴わしづかみにしてディアスの眼前につきつけた。


「ではこれは!?神経接続式に改造して取り付ければ動くか、動くだろうな!チェインソーは?マシンガンは?動くだろうねえ!」


 カーディルが顔をあげ、ディアスと視線しせんかわわした。こいつ大丈夫か。そう言いたいのであろう。ディアスとしてもまったく同感だ。


 そんな彼らの心情しんじょうなど知ったことではないとばかりに、マルコはディアスの肩をばしばしと強く叩いていった。


「さっきは興味きょうみがなくなったなどと言って悪かったね。やはり君は素晴すばらしい、僕たちは良きパートナーになれると思うんだ」


「それは俺たちを使い捨てにするつもりはない、と解釈かいしゃくさせていただいてよろしいでしょうか」


 ディアスが眼に力を込めて真っ直ぐに見据みすえてくる。自分が実験の対象たいしょうとなるならばそんなことは聞いてこなかったであろう。カーディルが実験に使われるからこそ、確かめておかずにはいられなかったのだ。


 本当にいい男だ。マルコはにやりと笑った。


「もちろんだとも。僕も腹を割って話そう。これから行う実験は、ハッキリ言って金がかかる。カーディルくんに死なれたら困るのはこっちも同じさ。生きてげてもらわなければならない」


 大きな両開きの扉の前、マルコはその脇の認証装置にんしょうそうちを操作していた。指紋を読み込ませ、カードを通すと、ガコンとかぎの外れる重い音がした。


「行こうか、僕たちのかがやかしい未来へ!」


 ドアを蹴飛けとばして中へ入る。蹴飛ばす必要があるのかといえば、ただ景気けいきづけであろう。かなり興奮しているようだ。


 この先に何があるのだろうか。車イスの取手とってを持つディアスの手に力がこもる。


 ふと、気がつくとディアスのほおでるやわらかな感触かんしょく。カーディルの左手が彼を落ち着かせようと頬に触れているのだ。


 見上げるカーディルと目があった。


「大丈夫、二人一緒なら、なんだってやってみせるわ」


 カーディルはとうに腹をくくっている。ならば、いつまでも不安げな顔をしているのは彼女の覚悟かくごに水を差す行為ではないか。ディアスはうなずき、前へみ出した。


 中は大きなガレージのようだ。正面、ライトにらされた先に黒光りする重厚じゅうこうな戦車。そして対照的たいしょうてきに真っ白な白衣のマルコの姿が浮かび上がる。


 彼はこぶしで戦車の装甲そうこうを叩く。ゴンゴンと重い金属音が静寂せいじゃくのガレージ内にひびいた。


「神経接続の技術によって義肢は動く。重火器だってそれ専用に改造すれば撃てるようになるだろう。では、こいつはどうかな?」


 そういってひとり、ふくわらいをもらすマルコであった。


 ディアスとカーディルはそろって同じような表情を浮かべている。やっぱり不安だ、と。

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