第21話
狩りに出て、一日休み。狩りに出て、二日休みと、休む時間が長くなってきた。
カーディルの
ある日、狩りから戻るとカーディルはベッドにぐったりと横たわり、ディアスが部屋に入っても何の反応も示さないことがあった。視線はぼんやりと宙をさ
まさか、と思い
水を飲ませ、軽く
「あ、ディアス……?」
などと、今気がついたような声を出した。
カーディルのディアスに対する
ディアスもまた、部屋に残したカーディルのことが気にかかり、狩りの
最低の
今は二人、身を寄せあって部屋でぼんやりとしている。
言葉は無い。ただお互いの体温を感じているだけだ。それだけが唯一残された安らぎであった。
愛用のライフルさえも売ってしまい、一週間分の水と食料に変えたが、それも尽きようとしていた。
「ねえ、ディアス……」
カーディルのハッキリとした声を聞くのはとても久しぶりのような気がする。ディアスは少し
「私のこと、
正気に戻っている。だが、それは
「恨む? なぜそんなことを?」
「だって私、あなたの足手まといになっているでしょう?私さえいなければ、あなたは自分の人生を歩むことができたでしょう?」
「それは違うよ、カーディル」
ディアスは優しく語りかけながらカーディルの
「カーディルがいてこその、俺の人生だ。今だから言うがね、君がミュータントに
「えぇ……それじゃあ、なんで来たのよ? ちょっと様子を見に行こうって距離でも場所でもないでしょう? 観光名所にするには
「
「いや、違うな。死ぬとばかり考えていた訳じゃない。頭の
「いきなり
「男の
「結局、来てくれたわけで。
「それどころじゃなかったからねぇ……」
顔を見あわせ、二人は笑った。とても笑い事ではないが、もう笑うしかない。
「なにより意外だったのは君が
「いきなり突っ込んできたわね……いや、色んな意味で突っ込んだのはあなただけど。何これ、本音をぶっちゃけていい流れ? いかにも遊んでいる女って、そういう風に見ていたの?」
「男遊びが激しいとまでは思っていないが、君の回りにはいつも男が
「サークルの姫ならぬ、ハンターの姫か。あんまり格好のいいもんじゃないわね」
カーディルは長いまつげを伏せて、つまらなさそうにいった。
「取り巻きどもに男としての
「雰囲気に流されて、か」
「できあがった空気というやつは馬鹿にできたものではないわ。あれはじわじわと精神を
「そうだな、確かにそうだ。どんなに努力しても、働いても、周囲からは低く見られていたんだ。それこそ、明らかに俺より弱くて
そんな扱いが続くと、何をしても無駄、何もかもがどうでもいいといった方向へ
やはり、カーディルは美しいだけでなく、
「ずいぶんと話が遠回りになってしまったが、俺が自分の生きる道とか、目標を見つけたのは君の存在あってこそなんだ。恨むどころではない、むしろお礼を言いたい。一緒にいてくれて本当にありがとう」
彼女は満足げに、そして少し疲れた顔で
カーディルが少しだけ首を伸ばす。その意図を理解してディアスは唇を重ねた。
結局、悪あがきをしていただけで彼女を守ることはできなかった。
自分は何に負けたのだろうか。中型のミュータントにだって負けはしなかった。ひとを
現実という姿無き敵、あまりにも強大で
カーディルに語った言葉に嘘はない。事件以来、一緒にいた時間は辛いことも多かったが、同時に幸せだった。
今にも消えてしまいそうなカーディルの顔をじっと見ながら、過去に思いを
病室の前で出会った男、マルコ。病院の
調査を頼んだとき、カーディルはなんと言ったか。
(
聞いたときも思ったが、あまりにも
だがもしも、噂が真実であったならば売れるものがまだあるということだ。
(こんな話にすがろうとしていること自体が、俺の頭がいよいよ
床に落ちた雑誌が視界に入る。カーディルの
拾い上げてパラパラとめくる。出版業界も
(おいおい、
そのときは
水分が薄れ、
しばらく探してから気がついたが、ページの右下を自分の指で
ゆっくりと、紙の上を
【丸子製作所】
「いや、だから、嘘だろ……?」
信じられない、という顔をしながらも、怪しげな噂に賭けてみようかという気になっていたディアスであった。
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