第20話
他人から見ればひどく
狩りから帰れば出迎える女性がいて、夜は抱き合って一緒のベッドで眠る。
ディアスは今まで、部屋に戻ってもやることなどなく、帰れば銃の分解と組み立てをひたすらやって、眠くなれば寝るという生活を繰り返していた。
人と
手足を失った女の為に、ただひとりライフルを
違う、そうではないのだとディアスは自信をもって言えた。彼女がいるからこそ、自分は
ディアスが帰るとカーディルはすぐにシャツをはだけて、
彼女はひょっとするとドスケベなのではなかろうかと考えつつも、ありがたく応じていたディアスであったが、事態はどうもそれほど単純ではなかった。
カーディルの望み、思考方向はディアスの役に立ちたい、喜んで欲しいというその一点にのみ向けられている。ではそれを
他にも理由はある。ディアスが狩りに出かけている間、カーディルはこの部屋にただひとり残されることになる。
地下の薄暗い小部屋で、何の
入院していたときだってそれほど他人との会話があったわけではないが、街の
ここは、完全に外界と
耳が痛くなりそうなほどの
そんな彼女の心配をしてか、ディアスが本を買って来たこともあったが、この状態で文字が頭に入るはずもない。数行読んで放り出し、また数行眺めて脇に置くといったことを繰り返すだけであった。
考える時間だけが、無限にあった。このような環境での考え事は常に悪い方へ、悪い方へと向かってしまいがちである。
ドアを開けてディアスが出ていったまま帰ってこないのではないかという不安にかられていた。ミュータントに襲われ命を落とすか、自分に
ある日、ディアスが頭を負傷して帰ってきたことが、彼女の不安を増大させた。
固く巻きつけた
「なに、ほんのかすり傷だよ」
ディアスは心配かけまいと笑って言うが、カーディルは即座に
彼女とて数ヵ月前までハンターとして活動していたのだ。どういった種類の傷なのか見ただけである
「いやぁ、ちょいとばかし
嘘だ。彼は相手を
ディアスはなおも下手くそな嘘を並べようとしていたが、カーディルがその体にしがみついて言葉を
「お願い、どこにも行かないで……」
「え?ああ、行かないよ。ずっと君のそばにいる」
しがみつくカーディルの腕に力がこもる。ずっと一緒にいて欲しいとは言葉通りの意味だ。この生活を続けていこうという話ではない。それをわかって欲しい。
「おねがい、ディアス。どこにもいかないで、ずっとそばにいて、わたしをすてないで……」
何かがおかしい。ディアスは
ディアスはカーディルの
この顔は見覚えがあった。
先程のカーディルの言葉を思い出す。どこにも行かないで欲しい、捨てないで欲しい。どちらもディアスに関わることだ。
一人にしておいたから、こうなったのか。薄暗い地下室でディアスの帰りをただ待つことしかできず、いつか帰って来なくなるのではないかという不安と恐怖に耐え、耐え抜いて、彼女の精神は
(俺が、彼女を追い詰めていたのか……?)
だが、それでは、どうすればよかったというのか?
生きるにも、前へ進むにも金が必要だ。己の能力を活かして
(結局、俺たちの運命は最初から
カーディルの体を強く抱き締め、
「一日くらい狩りを休んだっていい。明日はずっと、一緒にいようか」
「うん……」
意識が不明瞭ではあるが、どこか嬉しそうな答えが返ってきた。
これが破滅への第一歩だと頭のなかで激しく
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