第18話
病室から追い出されることになった。
ミュータントに
これから先、医師の
ディアス自身、病院を
未払いの分は後で必ず支払いに来ると
彼はその胸にカーディルを抱き抱えて立ち上がった。カーディルは左腕をディアスの首に回してぎゅっとしがみついている。
見た目はまるでコアラをだっこする男のようだが、二人の
犬蜘蛛の巣から命からがら脱出し、病院に転がり込んだときと同じような
カーディルの
見ず知らずの他人の悪意が
ディアスはちらと背に顔を向けた。カーディルを抱えた
「ねえ、ディアス……」
顔を埋めたまま、くぐもった声でカーディルが呟いた。ディアスは悪夢から覚めたように顔をあげて、カーディルの背を
「なんだい?」
「……ううん、何でもないわ」
言いたいこと、聞きたいこと、話したいことと山ほどあるだろう。だが、それらが言葉にならないことはディアスも理解している。
「大丈夫、わかっている。わかっているから……」
「うん……」
背に貼り付く悪意を振り払うように、早足で歩き出した。
ディアスの部屋は地下駐車場を改造した
電子ロックを解除し、重たい鉄の扉を開ける。
中にはベッドとトイレ、そして机と
カーディルをベッドに寝かせ、ディアスはパイプ椅子に腰を下ろすと、疲労が一気に
その一方で、安心もしていた。ここならば誰の目に触れることもない、指差して笑われることもない。地の底の楽園だ。
「私たち、二人きりよね……」
灰色の天井を見上げながらカーディルがポツリと呟いた。
「ああ、この部屋に二人だけだ」
「部屋というよりも……」
首だけ動かしてディアスを見る。その目にはやはり、疲労とわずかな安心が宿っていた。
「この世界に、よ」
その言葉の意味するところをしばし考える。外の世界に人間はいくらでもいるが、そのなかに信頼できる者はいるか、愛情を持てる者はいるだろうかと。
ディアスもカーディルも、お互いのこと以外に興味はない、期待もしていない。
「そうだな。この世界に、二人っきりだ……」
絶望の言葉のなかに、ほんの小さな
ふと、パンドラの箱の神話を思い出す。なぜ彼女は
ディアスもまた、その手に残った愛情を手放す気にはならなかった。たとえ
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