第16話
カーディルの
「あの……」
ディアスは思わず声をかけたが、それから何を言えばいいのかわからなくなった。
カーディルの
何か聞きたいことがあったはずだ。頭の中で答えを探していると、男の方からにんまりと笑って話しかけてきた。
「いつも
「いえ、俺とカーディルは
「ふぅん、さっさと結婚したら?」
「ああ、
「ディアスです、この街でミュータントハンターをやっています」
マルコと名乗った男が右手を差し出す。
ハンターが
いや、命を
その瞬間、ディアスの背に冷たい感覚が走った。マルコは顔全体でにこにこと笑っているが、目だけが笑っていない。元々細い目が近眼用のメガネのせいでさらに細くなったように見える。
手を離すと、危険な感覚は消え去った。目の前にいるのは
「それで、何か聞きたいことがあったんじゃないのかな?」
先ほどの
信頼というよりも、この男に隠し事はできないという判断がディアスの背を押した。背筋をまっすぐに伸ばし、マルコを
「この病院の地下で、手足の
一歩間違えれば
「うん、そういう
(こいつは今なんと言った?じぜんじぎょう?正気か?)
ディアスは
不快な
「ああ、つまりあれだ、君はこう言いたいわけだ。不幸な女性を利用するような売春組織は許せん、と」
人の
「……そういうことです」と、
マルコはディアスの姿を上から下まで目を走らせ
「ハンターがミュータントとの戦いによって手足や耳、鼻、あるいは
「それで、だ。こっからが本題。重傷を負って仕事を続けられなくなったハンターは、それからどう生きればいいと思うね?」
「転職する、とか……」
医師の口もとが
「ハンターの前で言うのもなんだけどね。
考えを
「売春組織は、そうした女たちの受け皿だということですか」
「そういった
「人が人を救うということがどれだけ難しいか。今さら君に言うようなことでもないか。
「わかっている……つもりです」
「そうだろう。
首をかしげてディアスの顔を
「いえ、大丈夫です。今は休んでいる
「そう、ならいいんだけどさ。君のような体力のありそうなタイプは疲れが表に出にくいだけで、
マルコは早口でまくしたててから、
「で、地下売春の件は納得できたのかい?」
「先生の
しかし、上げた顔に貼り付く表情は納得とは程遠いものであった。とりあえず理解はしたからこれ以上文句は言わない、くらいのものだろう。
それでいい、とマルコは満足気に頷いた。食っていくためには体を売るしかない、というのはあくまで
若者に、こんなくだらないことで納得されてたまるものか。現実とはこういうものだ、などと
マルコはこの、
「結局は金、ここに
突然、マルコの両肩はがっちりと
ハンターの力とはこれほどのものか。なんとか身をよじって
「それですよ、それ!」
「何がぁ?」
「
「うん、何か喜んでいるのはわかったが、とりあえず離してくれるかな。僕はウサギじゃないし、君はアリスじゃない。捕まえたってしょうがないだろう」
「や、これは失礼しました」
ディアス両手をぱっと離して後ろに下がる。
肩に
「どうしてその話が今まで君の耳に入らなかったかというとね……」
「はい」
「
はっきり言われてしまった。どうしようもないほどの事実ではあるが、もう少しオブラートに
(
出会って数分の付き合いだが、ディアスはマルコという人間を少しだけ理解した。
彼に
「具体的には、いかほどで?」
ディアスはなおも食い下がった。か
「一番安いもので、
甘かった。義手一本で背に回したライフルと同じくらいかと考えていたのだが、それらを数十本束ねたところで届かぬ金額である。
戦車がないから
大きく稼ぐためには戦車が必要。
義手は戦車と同じくらいの値段。
三すくみの
「
「いえ、貴重なご意見をありがとうございました。これからどう動くか、しばらく考えてみたいと思います」
その後ろ姿を、マルコはいつまでも
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