第14話
ノックをして、返事も聞かずに病室へ入る。
カーディルは顔を向けて、
「さっき、
名前を覚えていないので適当に言った。存在そのものは不快であるが、話の種になることだけは感謝していた。今日は無言で見つめあい、無言で帰るような後味の悪い見舞いにならずに済みそうだ。
「アルダが見舞いに来てくれたのよ。今さら」
今さら、という単語に
アルダ、その名を聞いてようやく思い出した。
(そういえばいたな、いつもカーディルの
そんな女が、今のカーディルを見て何を思ったか。そもそも何をしに来たのか。かつて
さっきから怒ったり安心したりと
「何を話していたんだ?あまり良い予感はしないが」
「ご
「で、君はそれを信じたのかい」
その問いに、カーディルは軽く鼻をふんと鳴らす。
「まさか。逆に理解できたわ、こいつら私を見捨てたんだって。自分は何も悪くないってことにしたくてディアスにケチをつけているんだ、ってね」
一人を助けるために全滅するような危険は避ける。動けない者を切り捨てる。それはハンターの行動としては正しい。だが、それは責任を他人に押し付けるようなものではない。生きるために捨てたのだと、ハッキリ言えばいいことだ。
やはり、あいつらは
「
「そうでしょうね。
ふう、と息を吐いて天井を見上げる。汚れたキャンバスに彼女は何を見ているのか。
「メニュー
「
「別に何も。聞こえなかったふりをして一人でしゃべり続けたわ」
「
ディアスの呟きに、カーディルは大きく
「ああ、それよそれ。あいつの人間性を表現するのに何かしっくりくる言葉があるような気がしていたんだけど、それだわ。うん、卑怯者だ」
他人の悪口で盛り上がるのはあまり
(すまない、卑怯者のアルダ君!)
少しだけ
「あなただけよ、私の話をまともに聞いてくれるのは……」
熱をもった、
(誰に命令されたわけでも
入院費の支払いが遅れているのだ。ちょっとくらいいいだろう、と
ディアスは立ちあがり、カーディルの
「もう一度、その、いいかな……?」
照れた顔で身を固くするディアスに、カーディルは
以前のような、契約書に判を押すようなキスとは違う。今は体に生気が
それだけで、こうまで違うものかとディアスは目を見開いた。
カーディルの指先がディアスの手からするりと逃れ、そのまま首へと回された。
「ん……」
彼女の方から求められているということが、ディアスの心を幸福感で満たした。
空いた右手が自然と胸のふくらみへと吸い寄せられた。カーディルの身がピクリと
(いかん、調子に乗りすぎたか……)
「あなたのやること、したいこと。私は全て受け入れる。何も
ディアスの体を軽く押して、互いの顔が見える程度の距離をおくと、いたずらっぽい笑みを浮かべて、赤い舌をちろりと出した。
「ただこの部屋、
その笑顔に、ディアスさはかつての日常をほんの少しだけ取り戻したという確信を得た。感動で胸が熱い。
ディアスはカーディルの左手を両手で包み込むように握り、深々と頭を下げた。
「ありがとう、カーディル」
「え?いや、お礼を言わなくちゃならないのは私の方だと思うわけで……」
「俺は、君のおかげで
「いやぁ……どう考えても救われているのは私の方なわけで……ね、ちょっと、聞いてる?」
カーディルの
結局、見回りの
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