第10話
出入り口は犬蜘蛛の巨体で
壁に無数の穴が空いてはいるが、光が
今、このミュータントから見てディアスはどういう存在だろうか。巣を荒らし、
(道に迷って入っちゃったんだ、すぐに出ていくから許して……で、許してもらえるわけがないよな)
ディアスはカーディルを背に
犬蜘蛛に一瞬で
銃を構えている、などと立派なものではない。恐怖が全身に
軽く首を回してカーディルを見る。
(これ以上苦しまぬようカーディルを撃ち殺し、俺も頭を吹っ飛ばして自害するべきか。二人揃ってミュータントの保存食になるよりはいっそのこと……)
そのとき、目の
今にも飛びかからんとする犬蜘蛛の眼前に放り投げられた。それは、子犬蜘蛛の頭である。
一瞬、動きが止まった。
ディアスの目に、暗い光が宿る。震えは治まった。
闇のなか
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
建物が砕けてしまいそうな絶叫が響き渡る。犬蜘蛛は暴れだし、壁に天井に、無茶苦茶に体をぶつけだした。
大小さまざまな
走りながらディアスのなかに、どっと苦い感情が流れ込む。
死体を利用したこと、親子の情を利用したこと。
人間とミュータントの戦いは主義主張の違いによるものではなく、憎しみあっているわけでもなく、ただの
それから30分ほど黙々と歩き続けた。振り返ると、まだ廃墟が見える。
犬蜘蛛が追ってくる様子はない。
(ひょっとすると、子供を守るためではなかろうか?1匹殺されているのだ、念のためその場に残り警戒していてもおかしくはない。片目を潰された怒りも抑え込み、何よりも子への愛情を優先させたのではなかろうか……?)
犬の気持ちなどわからない。ましてや狂犬病のようなミュータントの想いなど。
だが、今にして思えば子犬の頭を放り投げたその瞬間、犬蜘蛛の表情に変化があったような気がした。赤い瞳に浮かんだ哀しみの色を、自分が潰したのだと。
気分は
己に残り、背負った命。たったひとつの大切なもの。
これを守り抜くことが出来なければ、俺は本当にただのクズだ、と。
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