第9話
「ひぃぃ!」
ディアスは情けない
「なんだこれ……なんなんだよ、これ!」
誰に向けてというわけでもない独り言を呟く。恐怖を少しでも吐き出しておかなければとても正気ではいられそうになかった。二本の足がきちんと地についているのか、それすら自信が持てない。
ヘッドライトに照らされたカーディルの
とにかく今は
こうなると手で振り払うしかないのだが、
こうして救出の準備を進めている間、誰にも邪魔をされることはなかった。カーディルは意識があるかどうかもわからず、子犬蜘蛛たちは構わず食事を続けている。肉食蠅もおこぼれにあずかろうと集まってきたようだ。
誰も、ディアスを見ていない。
人間だけではない、虫も化け物も、彼をただそこに居るだけのものとしか見ていないのだ。
(ふざけやがって……ッ、誰も彼もが俺を無視しやがる。こんな虫ケラどもでさえも)
強い
さらに1匹の蜘蛛を掴みあげ、叩きつけ、その胴体を怒りと全体重をかけて踏み潰した。体液を撒き散らし、
蜘蛛としての胴体はぐちゃぐちゃに潰れ、犬の首だけが転がった。
ここまでしてようやくディアスの存在と危険性を認識したのか、まさに蜘蛛の子を散らすように
飛び回る肉食蠅を振り払い、カーディルの様子を確かめる。
服は肉と共に食い散らかされ、着ているというより、ぼろきれがまとわりついているといったところだ。
意外にも出血は少ない。手足の切断面に白いねばつく糸が
泣きじゃくるディアスを
だが、確かに生きている。生きているからこそ
やがて泣き止んだディアスは脇に置いていたライフルを掴み、立ちあがり、その銃口をカーディルに向けた。
「生きたいか、死にたいか……どっちだ?」
カーディルの唇がかすかに動く。四文字、のような気がした。
ディアスに
文字数は同じでも意味は
ヘッドライトの薄明かりのなか、カーディルの目尻に光るものを見たような気がした。涙、だろうか。
それは生きて欲しいというディアスの想いが見せた幻想だったのかもしれない。だが、これでやるべき
震える銃口を下ろし、その場に膝をついてカーディルの身を起こし、力強く抱き寄せた。
「助けてやる。絶対に、助けてみせるから……」
また、とめどなく涙が
二人の上に、影が落とされた。
背後の強い
巨大な犬蜘蛛であった。
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