第3話

 太陽と砂ぼこりの町、プラエド。どこまで行っても機械油の匂いが付きまとう、ハンターたちの町である。


 ディアスは行きつけの整備工場に戦車を止めると、まずはカーディルと戦車をつなぐチューブを取り外しにかかった。


 青白く明滅めいめつする古くさいディスプレイを見ながらキーボードを操作すると、カーディルとチューブをつなぐめ具が、ぷしゅうと空気を吐きながら解除かいじょされた。


 ゴーグルを両手でしっかりとつかみ持ち上げると、腰まで伸びたつやのある黒髪が風をでるようにふわりと落ちた。久しぶりの素顔の対面に二人は疲れた顔に笑顔を浮かべ、にこりと笑いあった。


 次に、そなえ付けの物入れから足を取り出した。ただ歩くことだけを目的とした、飾り気のない鉄の組み合わせの義足である。物入れの中には義手もあるが、腕から付けるとバランスを崩して台座からころげ落ちかねないので、まずは足である。


 カーディルが義足を付けやすいように先のないももを持ち上げる。ディアスは厳粛げんしゅく儀式ぎしきのぞむ神官のように、右義足をうやうやしくかかげ、接続した。


「んっ……」


 神経接続の際に電流のような衝撃が走り、カーディルの口からはなまめかしいうめきがれる。


「すまない、痛かったか?」

「大丈夫、いつものことよ。いつものことだけど、こればかりはれないわね……」


「義足の神経接続に慣れている奴なんかほとんどいないと思うぞ」

「ごもっとも」


 脂汗をひたいにじませながら軽口を叩く。覚悟はできた、との合図にうなずいてみせる。続いて左足、右腕、左腕と接続し、終わった頃には冷房を全開にしているにもかかわらず、全身が汗まみれであった。


 長い睫毛まつげせ、息を深く吐く。左右にちらと目を走らせ確かめた鉄の腕。その目は、決して好意的なものではない。己が運命に対する憎悪と、あきらめ。


 5年前まではその顔、その髪に劣らぬすらりと伸びた美しい手足があった。今の自分はどうか。例えるならば子供が人形とプラモデルをバラバラにして、適当てきとうつなげて遊んで、飽きててたもの。そんな表現がぴったりではないか。


「辛いか?」


 いつまでも動こうとしないカーディルに声がかけられる。見上げるとそこに優しげな目で見つめるディアスの姿があった。


 神経接続した義足は意のままに動く。カーディルはきしむ義足で立ちあがりディアスの胸に身を預けた。


「つらいよ……」


 かすかに震える声で呟く。ディアスの大きな手が、カーディルの機械油の匂いが染み込んだ義手が、互いの背にまわされた。


 義手の先端に伸びるものは5本の指ならぬ、三本の爪。二人だけの静寂せいじゃくのなか、三本爪がカチカチと悲しげな音を打ち鳴らしていた。

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