勇者伝説セイバスターRebirth

紅羽根

第1話「伝説の始まり」

【1】


 その日は抜けるような快晴の下、暖かな日差しが賑わっている街を照らしていた。休日という事もあるが、今日は特段多くの人々が集まっている。

 今日は『世界平和記念日』という祝日だ。約三十年前に宇宙から地球を植民地にしようと侵略者の集団が現れ、それを世界各国の軍隊が結集し撃退し戦いを終えた日を記念して制定された。

 この場所は戦場となっていたため、毎年この日になるとお祭りのように盛り上がりを見せていた。広場のステージでは講話やライブといったパフォーマンスや、当時の戦いの様子を脚色して子供向けのヒーローショーのような劇が次々と行われていた。

「いっけー、ガンサイジン! そこだー!」

 赤いジャケットを羽織った少年もまた、目の前で繰り広げられているショーを楽しんでいた。

「そ、空人そらと、さっきから驚かせないでよ」

「ごめんごめん、晴香はるか。ついつい」

 空人と呼ばれたが、苦笑いしながら隣に座る晴香と呼んだポニーテールの少女に謝る。

「もう……」

 晴香は少しふくれながらワンピースの裾を直した。さすがに三度目ともなると少しばかり警戒してしまう、それがあまり嬉しくない。

「しかし空人君が元気になってよかったな、晴香」

 空人とは逆隣に座っている晴香の父親が、嬉しそうに微笑んで空人を見ている。

「――うん、そうだね」

 晴香はそんな父親の言葉から、一ヶ月ほど前の空人の様子を思い出した。


 光神空人ひかみそらとの両親は父親の仕事の都合により、海外に転勤する事となった。空人の両親から晴香の両親を経て晴香が知った事だが、空人の父親としては家族全員で引っ越すつもりであり、母親も同じ考えであったそうだ。

 しかし空人はそれを拒んだ。理由はたった一つ、「友達と離れ離れになるのが嫌だから」だという。


 光神家は空人が小学校に入学するまで、父親の仕事により世界の各国に移り住んでいたらしい。今の空人しか知らない晴香にとっては信じられないのだが、それにより空人は友人が出来ず、新しい環境になかなか慣れない消極的な性格になってしまったとの事だ。

 今から五年前、空人が小学生になった時には転勤がなくなったものの、両親は空人が小学校で孤立してしまわないか、学校に行きたがらなくなってしまうのではないかと心配していたらしい。

 しかしそれはすぐに杞憂となったという。というのも入学してからしばらくして、空人が友達を作ったと嬉しそうに伝えてきたからだそうだ。話を聞くにその友達の方から空人を遊びに誘ったらしく、そこからあっという間に仲良くなっていったとの事だ。風間晴香かざまはるかはその頃に空人と出会っており、風間家も光神家から歩いて五分もしない距離という事で家族ぐるみの付き合いが出来た。

 そんな空人の事情を知っているからこそ、両親は空人が海外への移住を拒否した事をすぐに理解したらしい。やむなく両親は空人を風間家に預ける事にし、二人で海外へと発った、というのが晴香の聞いた光神家の事情だった。


 空人は自分のわがままを通したとわかっているとはいえ、両親と離れるのは少なからずショックだったようだ。友達と離れるのも嫌だったと言うが、やはり親との別れも辛かったらしい。両親を見送ってから数日は夜に独りで泣き出し、一週間は遊びにも勉強にも集中していなかった。

 晴香はそんな空人を見るのは初めてであったので心配していた。しかし一週間を過ぎてからは徐々にいつもの調子に戻ってきており、一ヶ月経った今では元の明るさを取り戻している。

 空人が落ち込んでいた頃から、晴香は今日のお祭りに空人を連れて行って元気を出してもらおうと考えていた。しかしその目論見は良い形で外れている。


「ん、どうしたの、晴香? 僕の顔に何かついてる?」

「ううん、何でもない」

「変なの……あっ、危ないガンサイジン!」

 やはり落ち込んでいるより明るく元気な方がいい。晴香はショーを楽しんでいる空人を見て安堵した。


 *


 街の端にある駐車場は、お祭りに来た人々が乗ってきた電気自動車で満杯になっていた。太陽の日差しを受けて様々なカラーリングの自動車が輝いている。

「やっと停める事が出来た……。まさか三十分も探し回るハメになるとは思わなかったぞ。ナビ機能に改良の余地ありだな」

 その一角で真っ赤な自動車から降り立った白衣の中年男性が、誰に聞かせるわけでもなく愚痴を漏らす。どうやらナビゲーションが駐車場の空き場所まで適切に案内してくれなかったようだ。

「さて、我が研究所のスタッフ達はしっかりやっているかな」

 男性は携帯電話を取り出し、文字を打ち込んでメールを送信する。

「……よし」

 送信が完了したのを確認すると携帯電話を仕舞って歩き出した。




【2】


 地球の周りを回っている無数の人工衛星は、今や人々の生活に欠かせないものとなっている。気象観測を行っている衛星、測位により個々人の位置をミリ精度で特定出来る衛星などが代表であり、他にも地球外から飛来する物体を観測する衛星や迎撃システムなどといった地球防衛用の衛星も存在する。

 だがそれらのうち幾つかが、突如として爆発した。綿密な計算や軌道修正により、デブリに衝突する確率はコンマ以下も無い。幾つかの衛星が空間の歪みを計測しており、それが原因だと判明するのはもう少し後の事である。

 空間を歪ませたのは、不可視の巨大な物体であった。光学カメラではその姿を映し出せず、電波や赤外線でもとらえる事が出来ない、完全なステルスが施されている。

「あの青き輝きの星が、次なるターゲットか」

「この星はオレをどのくらい楽しませてくれるんだろうな? ククッ」

 その巨大物体の中にある無機質なタイルで囲まれた空間に、人の様な存在が二つ。中世騎士の様な鎧を纏い、自身の背丈と同等の長さほどある巨大な剣を背負った仮面の者と、真っ青な肌と漆黒の体毛にコウモリの様な翼を携えた空想上の悪魔の様な者が、壁のスクリーンに映し出された地球を眺めている。

「ゴルヴォルフ、前の星みたいな事はするなよ。集められるはずだった『マイナスマインド』が全て台無しになったのだからな」

「そういうソルダーズこそ、ちまちまやってたら先にくたばっちまうぜ」

 ソルダーズと呼ばれた仮面の者はゴルヴォルフと呼んだ相手に対して忠告するも、皮肉で返されてしまう。ソルダーズはすかさず背中の剣の柄を握るが、それを使用する事はなくなった。

「それまでにしておけ」

「レクイスト……!」

 突如二人の間に人型の影が出現した事で、ソルダーズは健の柄から手を離した。

 その影――レクイストは徐々に輪郭を明確にし、漆黒のマントと巨大な鎌を手にした地球人と変わらぬ姿を現す。レクイストはソルダーズとゴルヴォルフのどちらにも目をくれず、言葉を続けた。

「ヘルゲイズ様からの伝令だ。ソルダーズはこの最も広い大陸のそばにある列島へ、ゴルヴォルフは裏側の大陸へ向かえ」

 二人に指示を出しながらレクイストは地球の地図をスクリーンに表示させる。

「何故私がこの島に?」

「この地はこの大きさの島でありながら、生命の密集度は他の地域と比較して高い。マイナスマインドを集めるのに適した地だ。それに前の星での功績を加味し、ソルダーズが適任と判断されたのだろう」

「――という事だ、ゴルヴォルフ」

「ククッ、だから何だってんだ」

 仮面により表情は判らないが、ソルダーズの声色からは優越感がにじみ出ている。だがゴルヴォルフは特に意に介さない様子であり、ソルダーズを一瞥したらすぐに地図に目を向けていた。

「もう一つ、ヘルゲイズ様からの忠告を賜っている。『聖なる意志』が従える『勇者』が我々に目を付けた。奴には注意しろ」

 レクイストの口から出てきた単語に二人が反応する。

「聖なる意志……以前に我々の邪魔をしてきた輩だったな」

「ああ、奴らは厄介だったぜ。さすがのオレでもちょっとばかり本気出さなきゃならねえほど、なかなか死ななかった鬱陶しい奴らが……!」

 ソルダーズはさほど特別な感情を抱いていない様だが、対してゴルヴォルフは以前の事を思い出して歯ぎしりしていた。

「貴様らなら問題は無いだろうが、障害は全て潰せ。全ては『宇宙帝国デストメア』のために」

「全ては宇宙帝国デストメアのために」

「この身は帝王ヘルゲイズ様のために」

 レクイストの号令を復唱するゴルヴォルフと、令の続きをつなげるソルダーズ。

 宇宙帝国デストメア――それが地球を侵略せんとする彼らの組織の名であった。


 *


 宇宙を駆ける一筋の光。星としては非常に小さく、しかし太陽の様な強い輝きを放つそれは真っ直ぐと地球に吸い込まれる。

「マイナスマインドは感じられない。間に合ったか……!」

 その光は街の上空で静止し、街の様子を見てまだ混乱に陥っていない事に思わず安堵した声を漏らした。

「だが安心していられない。デストメアの侵略が始まる前に、この危機をこの星の者に知らせなければ――」

 再び光が動き出す。


 *


「あれっ?」

「どうしたの、空人?」

 同じ頃、ショーが終わったので出店で買ったクレープを食しながらベンチで休憩していた空人が、何気なく空に目を向けた時に何かに気付いた。

「お昼なのに流れ星みたいなのが見えた気がしたんだけど……気のせいかな?」

 空を横切る一筋の光があった様に見えた。だが今はどこを探してもその光は見つからない。もし流れ星ならばそもそも昼間には見えず、飛行機ならばもっと速度は遅いはずだ。

「流れ星だったらお願いしなきゃ」

 そんな空人の疑問をどう考えたのか、晴香は論点のズレた事を言い出した。確かに流れ星が消える前に願い事をすればそれが叶うと言われているが、今はその話題を必要としていない。第一、既にその光は消えている。流れ星だったとしても既に願い事をする意味はない。

「えっと……何をお願いするの?」

 しかし空人は晴香の言葉を否定せず、敢えて話題を広げようとする。晴香が突然ズレた発言をする事は昔からよくある事であり、何度かその事を指摘したがズレた発言が無くなる事はなかった。それに指摘をすると晴香がとても悲しそうな顔になるのを度々見てきた。

 だから空人はこうして晴香に合わせる事にしていた。

「えっとね――」

 楽しそうにあれこれとしたいお願いを話す晴香。そんな彼女を見て、空人も少し楽しくなってきた。




【3】


 お祭りで賑わっている広場の近くに建つ十階建てのビル、その屋上にソルダーズは現れた。

「何とも醜い」

 広場の空間という空間を埋めるみたいに人々がひしめき合う様子を見下ろし、憎々しげに言葉を吐き捨てる。彼にとって賑わいは不快に見える様だ。

「だがこの醜い場こそ、マイナスマインドを集めるのにふさわしい」

 ソルダーズは背負っていた剣を床に突き立て、両手をかざして呪文を唱え出す。

「デッタムロフ・セルビタモク・ティステド――」

 言葉が紡がれて行くに従い剣を中心に床に奇妙な模様が描かれていき、軌跡が怪しく光る。その光が徐々に強くなるにつれ、周囲の空気もよどんでいく。

「闇より生まれ現れ出でよ――ハッ!」

 そしてソルダーズが剣を思い切り床に押し込んだ瞬間、そこに大きな裂け目が出現し奥から漆黒の雷が空に向かって落ちていった。雷が落とされた空は一瞬にして灰色に濁った渦に覆われ、地鳴りの様な音を響かせる。


 *


「えっ、雨が降るの?」

「まさか、今日の予報じゃ一日中晴れだって――」

 暗くなった空に人々が戸惑いだす。雷まで見えたという声も聞こえ、不安が徐々に広がっている。

「大丈夫かな、雨降らないよね……?」

「何か変だよ」

「えっ?」

 心配する晴香に対し、空人はじっと空を見つめて率直に疑問を口にした。

「だって、あんな渦巻いた雲なんて見た事ないよ。腫れてて何も無かった所にいきなり雲が出来るのもおかしいし」

「じゃあ何が――」

 晴香が尋ねようとした瞬間だった。


 オオオォォォォォッ!!


 激しく空気を震わせる咆哮と共に渦の中心から、『それ』は現れた。

 例えるなら、紫紺の毛に覆われた筋骨隆々の類人猿。だがその大きさは猿はもちろんゴリラよりも遥かに巨大であり、人の五倍から六倍、周囲のビルの半分ほどもある。

 それは己の重量に任せて地上に落下、着地した。着地の衝撃でアスファルトが崩壊し、辺り一帯を激しく揺らす。

「な、何あれ!?」

「巨大なゴリラ!?」

 あり得ない事象が起きている事に人々が混乱し始める。

「行け、『魔獣ダリグーブ』!」

 ソルダーズの掛け声が聞こえたのか、ダグリーブと呼ばれた獣は再び雄叫びを上げビルに向かって思い切り拳を振るった。

 ビルはウエハースの様に脆く崩れ、破片が散弾となって飛び散る。

「うわあああっ!?」

 魔獣の破壊活動によりあっという間にパニックが拡散していく。砕けた破片は周囲の建物を破壊し、更なる瓦礫を作り出して群衆に襲いかかる。それにより更に混乱は拡大し、人々はクモの子を散らしたかのように逃げ惑っていた。

「早くシェルターへ!」

 防弾着とヘルメットを装備した防衛隊隊員が、混乱の中群衆を誘導しようとしている。

「二人とも、走るぞ!」

「う、うん!」

「はい!」

 空人と晴香も晴香の父親に率いられて魔獣と反対方向、防衛隊員の出している指示に従い走り出す。

 魔獣はゆっくりとした動きで歩き、周囲をその腕で壊していた。

「ぎゃあっ!」

 瓦礫が飛散し、逃げ惑う人々に当たる。小さな破片が背中に衝突して転倒した程度で済んだ者もいれば、数メートル四方の瓦礫に押しつぶされてしまった者もいる。

「怖い……怖いよ、お父さぁん……!」

「大丈夫だ、お父さんがついているぞ」

 周囲の被害に怯える晴香。晴香の父親が励ましているが、今にも泣き出しそうになっている。

 今の所魔獣はゆっくりと歩いてはいるが、あの巨体では空人達の駆け足に容易に追いつくだろう。今は逃げつつ、危害が及ぶ前に防衛隊が来てくれるように心中で願うしかない。

(さっきの晴香じゃないけど、お願いしたい気分だよ……!)

 もし先程の流れ星がまだ空に残っているなら、この願いを聞き届けてほしい。空人はそう思わずにいられなかった。

「あっ!?」

「晴香!」

 その時、晴香が転がってきた小さな石につまづき転んでしまった。空人が晴香を立ち上がらせようと急いで駆け寄ってくる。

「おじさん、晴香が転んだ!」

「何――うわっ!?」

 空人の呼びかけに慌てて晴香の父親が振り向いた瞬間、二人と晴香の父親の間に大きな瓦礫が降ってきた。

「晴香、空人君、大丈夫か!?」

「だ、大丈夫です――ッ!?」

 幸いどちらにも瓦礫による被害は無いようだったが、その事に安堵している暇は無かった。

 後方から近づいてくる地響き。空人が振り向くと魔獣がすぐそばにまで迫ってきていた。

「あ、あ……!?」

 恐怖に顔が引きつる晴香。空人もどうする事が出来ない状況に目眩がしてくる。

 いや、出来る事が一つだけあった。

「ッ、は、晴香に手を出すなっ!」

 空人はへたり込む晴香の前に両手を広げて立つ。

 せめて晴香だけでも助けたい。その想いが衝動的に空人を動かしていた。


 *


「くっ、もう動き出したか!」

 時を同じくして、先程空を駆けていた光は魔獣が現れ破壊活動を開始した様子を上空から目撃していた。

 魔獣は街中を破壊しながら移動しており、今は駐車場の近くまで来ていた。瓦礫によって怪我を負ったために動けなくなった者や既に地下へ逃げ切った者もいるようで、逃げる人の数は少なくなっている。しかし未だに危険な状況である事に変わりなく、一刻も早く対策を講じる必要があった。

「やむを得ない。何か私の『身体』になるものは――」

 光が何かを探し求めてあちこちを飛び回る。周囲にあるのは、色とりどりの乗用車ばかり。あれらではとても役立ちそうにない、そう考えて別の場所に向かおうとした時だった。

「あれは――」

 魔獣の眼前にある小さな輝きを光は感じ取った。輝きを放っていたのは、両手を広げて魔獣をにらむ地球人の少年。

「あの輝きは、まさしく『勇気』の輝き!」

 光やその仲間達が感知できる、正しき感情が放つ力、それをこんな危機的状況で発揮する者がいた事に驚きを隠せなかった。

「あれを絶やすわけにはいかない!」

 先程よりも急いで飛び回る光。数刻もせず、光は自身にふさわしい『身体』――真っ赤に輝く電気自動車の真上で静止する。

「これは、周りと同型なのに異なる機構を持っている――!? だがこれなら!」

 その自動車の内部構造が見えているのか、驚きつつも光は自動車に飛び込んだ。

「チェンジ!」

 そして掛け声と共に光が飛び込んだ自動車が空中にジャンプする。自動車ならばあり得ないアクションを可能にしたのは、やはり自動車ではあり得ない変形によるものであった。

 跳躍の瞬間に自動車は変形して姿を変え、赤く輝く人型の巨大ロボットとなった。

「はあっ!」

 ロボットはそのまま魔獣に向かって飛び蹴りを放つ。魔獣は突然の攻撃に反応する事が出来ず、そのまま蹴りを受けて吹き飛んだ。


「えっ!?」

 空人が目に映った光景を理解するのに時間がかかってしまった。

 突如飛び蹴りを放った赤い巨大ロボット、吹き飛び地面に倒れ込む魔獣、そのどちらも数刻前に想像すら出来ていなかった姿だ。特に前者は何者かすらわからない。防衛隊にも人型の巨大ロボットはあるが、あの様な真っ赤な機体は存在していないはず。

「武器は――これか!」

 ロボットは右脚側部のカバーを開き、自身のボディカラーと同じ色の銃を取り出す。

「ファイナルブラスター!」

 そして銃を構え魔獣に向けてエネルギー弾を数発撃った。銃弾を受けた魔獣は倒れたままひるむものの、銃撃によって身体に傷は付いていないようだ。

「ならば!」

 ロボットが銃をしまい構えを取ると、両肩の紋様が輝き出す。

「ファイナルフラッシュ!」

 叫びとともに両肩から紋様と同じ形状の光が放たれた。光は魔獣に当たった瞬間に爆発を起こし、立ち上がりかけていた魔獣を再び転倒させる。

「すごい、すごいや……!」

 空人は果敢に戦うロボットの姿に魅了されていた。元来から空人はヒーローの類が好きだったが、今目の前にいる赤いロボットはまさにテレビから飛び出してきたヒーローの様だった。

「大丈夫か、地球人の少年よ」

「しゃ、喋った!?」

 その赤いロボットが空人の方を振り向き、膝をついて話しかけてきた。このロボットは喋る機能がついているのだろうか。

「ああ、驚かせてすまない。私は『聖なる意志』に仕える勇者、名は『ファイナル』と言う」

「勇者……ファイナル?」

「私は『宇宙帝国デストメア』の侵略からこの星を守るために宇宙から来た」

「侵略から、守るため……」

 それを聞いて空人はまるで伝え聞いた三十年前の戦いの様だと感じた。三十年前と異なるのは、地球を守ろうとしている者が宇宙から来たという事だ。

「なに、が、起きたの……?」

 晴香はへたり込んだまま、驚きの表情になっていた。あまりの急な出来事にすっかり恐怖はどこかへ言ってしまった様だ。

「後で詳しく説明する。今は――」

 ファイナルと自称したロボットが構えを取って魔獣の方に向き直る。魔獣は既に体勢を立て直そうとしており、ファイナルに対して怒りの目でにらんでいた。

「この魔獣を倒すため、君の力を貸してくれ」

「ち、力を貸す? どうやって?」

 ファイナルの唐突な協力要請に戸惑いを隠せない空人。力を貸すと言われても、いち小学生が何かで切るとは思えない。

「先程、私は君に『勇気』の輝きを見た。君のその『勇気』が、私の力となる」

「僕の、『勇気』……」

 空人は鼓動が少しずつ早くなっているのを感じ、シャツの胸元をギュッと握る。

「――僕に出来るなら、力を貸すよ!」

 力強く、空人は返答した。これから起こる事を想像して更に胸が高鳴る。

「ありがとう。君の名前は?」

「僕は空人、光神空人だよ」

「空人、君にこれを託そう」

 ファイナルが空人に向かって手を差し出すと、手の平の上に小さな光が現れた。空人がそれをじっと見つめると、その光は空人の左腕に巻き付きブレスレットとなる。

「これは?」

「『ファイナルブレス』だ。それが君の勇気を私に伝えてくれる」

 空人はいろんな角度からファイナルブレスを眺める。ファイナルの肩の紋様がファイナルブレスの表面にも描かれており、その隣には四角い突起が並んでいた。

「空人、ファイナルブレスの赤いボタンを押しながら唱えるんだ。『ファイナル・ブレイブ』と」

「わかったよ、ファイナル!」

 空人は一度深呼吸し、ファイナルの指示通りにボタンを押しながら教えられたキーワードを思い切り叫んだ。

「ファイナル・ブレイブ!!」

 その瞬間、ファイナルブレスが赤い光線をファイナルに向かって放った。それを受けたファイナルが同じ色の光に包まれ、オーラを纏ったようになる。

 同時に体勢を立て直した魔獣がファイナルに向かって突進してきたが、ファイナルは両腕を眼前で交差させてそれを受け止めた。真正面から突撃されたにもかかわらず、まるで地面に根を張ったかの様にファイナルはビクともしない。

「ッ!」

 ファイナルがその体勢のまま魔獣を押し返し、魔獣は再び吹き飛ばされて転倒した。同時にファイナルが構え直すと全身に纏っていた光が胸部に集まり、輝きを増していく。

 その輝きが頂点に達した瞬間、

「ファイナルバーン!!」

 ファイナルの叫びと共に胸部から赤く輝く光球が魔獣に向かって撃ち出された。光球は魔獣に衝突し、拡散して魔獣を取り囲む。ファイナルに押し返された上に光球の衝撃でよろめいている魔獣はどうする事も出来ずにいた。

 そして魔獣を囲む光が一瞬のうちに収縮し、輝きを拡散させるためのように魔獣と共に爆発した。

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

 空人達に爆風が襲ってきた。ファイナルが壁となっているため緩和されているが、それでも台風の時の風速並みであり吹き飛ばされそうになる。

 やがて爆風が収まり、空人は改めて状況を確認した。先程まで恐怖を振りまいていた魔獣の姿はどこにもなく、いるのは悠然と立つファイナルのみ。

「ファイナルが……勝った?」

「ああ」

「すごい、すごいや!」

 ファイナルの肯定を聞いてようやく実感が湧き出し、抑えきれない嬉しさで空人は思わず飛び上がった。ファイナルが勝利して平和を取り戻したのはもちろんだが、空人がファイナルに力を貸した事で彼に貢献したという事実も喜びの糧となっていた。


 *


「あれが、勇者……!」

 ビルの屋上で戦いを眺めていたソルダーズの言葉は怒りで震えていた。

 聞かされていた勇者が現れるのにまだ時間がかかると考えていたがそれが甘かった事、勇者によってマイナスマインド収集がほとんど出来なかった事、そして魔獣を容易に倒された事は、ソルダーズのプライドに傷を付けるのに十分だった。

「この屈辱、忘れはしない!」

 憎々しげに捨て台詞を吐き、ソルダーズはその場から姿を消した。


 *


「間違いない、あれは我々が開発した――!」

 ファイナルが乗り移った自動車の持ち主である白衣の男が、駐車場の入り口近くで携帯電話を手にしながらたたずんでいた。

『司令、あれはG-AIを搭載していなかったはずでは?』

「ああ、そのはずだ。それが意志を持って動いている上に不可思議な能力も使用している。おそらくエネルギー生命体が身体として利用したのだろう」

 携帯電話で誰かとファイナルについて語り合っている彼の表情は、驚きつつもどこか嬉しそうな笑みを浮かべている。

『声が嬉しそうですが』

「もちろんだ、宇宙に行かずとも地球外知的生命体と接触する絶好のチャンスなのだから。それに――」

 もう一度ファイナルを眺める。ファイナルの目線は足下の少年に向けられていた。

「我々が彼の力になれると思うとな、楽しみで仕方ないのだよ」

 男はまるで子供みたいに高揚感を抑えきれずにいた。

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