Md03「そして、幕は上がる」
Side by 総満 叶音
ピリピリとした異常な空気、
ワーディングによって行動を制限され、闘争も逃走もできずに、ただただ時間ばかりが過ぎていく。
この膠着状態に、精神をジリジリと削られていく感覚を叶音はひしひしと感じていた。
これだけド派手にライヴジャックしたというのに、警察もUGNからも動きがない。
叶音(…これいつまで続くんだろ…)
旭「……あーもう!うんざりだ!どうして俺がこんな目に!」
客席から旭は野次を飛ばした。
傭兵達の意識がそちらに流れる。
ワーディング下で動けないはずの身体を引き上げ、傭兵達を睨み付ける。
ガン「気骨のある若者だな。君もオーヴァードか?」
レイ「…ふん、美しくない」
旭「そんなこと俺が知るかッ!俺の友達を返しやがれ!」
総満「...!」
レイ「友達?…これがか?」
ガン「レイ、やめろ」
レイは両手を軽く上げて、やれやれ、と言ったポーズを取る。
それに対し、旭は力強く叫んだ。
旭「コレ?コレだと!?ソイツは天代総満!」
総満「...やめろ、何も言うな」
旭「天に代わって全てを満たすと書いて天代総満ッ!
俺の友人で!、よくわからないやつだけど!付き合いだけはイイヤツだ!」
旭「俺の友達を馬鹿にする奴は許さねー!撤回しろこのやろう!」
叶音(青春してるなー)
レイ「…友人か。…ガンちゃん君」
ガン「その呼び方をやめろ」
レイ「僕には我慢できない物が二つある」
ガン「奇遇だな俺もだ」
レイ「…先に聞こうか」
ガン「人のことを二重尊称で呼ぶやつと、シリアスな空気をかき乱すやつだ。
それで?」
レイ「美しくないモノと、友情などという美しくない理由が無ければ友すら救えない人間だ…!」
総満「...テメ...手出すんじゃねえ...」
レイは旭に向けて火の玉を投げつける。
旭「がっ……」
避けようとしたが所詮は人間、半身にモロに食らって吹き飛ぶ。おそらくは致命傷だろう。
適切な処置を施さなければ、旭は1時間足らずに死を迎える。
レイ「どうだ、これが友情の脆さだ!」
総満「...ざっけんな...人質はここに居んだろうが!!」
総満は力なくレイに手を伸ばす。
レイ「人質?…つけあがるなよ醜悪な肉の塊め」
レイは総満の腕を掴み持ち上げる。
レイ「…お前には、命としての価値すらない。…お前も消えろ」
パチン、と指を鳴らすと、総満の身体は火に包まれた。
レイ「お前は文字通り"食えない"奴だ。だが、"火葬"はしてやる。感謝しろ」
全身が焼き尽くされていく。
皮膚が剥がれ、生皮が空気に晒されたことがあるだろうか。
全身を焼かれる痛みとは、その感覚を何倍にも引き上げたような、チリチリとした痛みだ。
肌が、髪が、喉が、胃が、肺が、痛みに焼き尽くされていく。
総満(...チクショウ。でも立守を助けないと)
無力。なんと無力なのだろう。
自分は友すら救えず、自分の身も守れず、そして誰かの代わりに犠牲になることすらできず、ただ無意味に死ぬだけなのか。
嫌だ。
――ドクン
守れないまま終わる、
――――ドクンッ
そんなのは、嫌だ。
―――――――ドクンッ!
瞬間、君の中で何かが弾けた。
総満(死にたい訳じゃない...でも、燃えて消えてもいいからアイツを助けるチカラを...!!)
全身の血が逆流するかのような、激しい動悸と痛み。
君の焼け爛れた皮膚が泡立ち、ぶくぶくと再生を繰り返すッ!
焼け付く炎と、焼け付くような血流の痛みはリンクし、君の手の中に燃え上がる紅い武器となって形作られる。
レイの放った炎は吸収され、総満の手に、剣として収まった。
レイ「…聞いていないぞ、これは…」
総満「...?」
ガン「まさか、これは……」
総満「...まだ生きてる?」
叶音「"覚醒"…」
レイ「そこのアイドル…まさかこいつも貴様の知り合いか!」
叶音「もちろん!私のファンだよ!」
レイ「…そうか…と言うことはここにいる全員がオーヴァード⁉︎」
レイ「それはまずいぞ。どうするガンちゃん」
ガン「黙れ。喋るな」
レイ「うっす…」
ガン「覚醒した分なら制圧は容易だろう。ウィスプと叩く」
ウィスプ「任せて」
ガン「お前は外でも見張ってろ」
レイ「…了解した」
叶音「キミ、一つ良いかな?」
総満「アーはい?何でしょう」
叶音「ここから『生きて』帰りたい?」
総満「...ええ。ここに居る奴ら全員と一緒に」
叶音「いいね!男の子だね、少しばかり先輩として、キミの手助けをしてあげるよ」
総満「アーありがとう?ございます」
総満の決意は衝動に変わる。
ここからは誰一人欠けさせはしないという想いが、身体中を巡る違和感を加速させていく…ッ!
叶音「ぶっつけ本番だけど男を見せてよね!」
総満「任せろ!行き当たり張ったりは得意だ!」
さぁ、反撃だッ!
蒼海のカラミティ 犬野サクラ @sakura_inuno
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