Md02「向けるのは笑顔か、あるいは」
Side by 愛子
愛子は今までの、イザナミーの上層階、普通なら会社関係者しか入れないV.I.Pルームに通されている。
巨大な水槽は、その向こうが窓になっており、徹底的な清掃が行われた美しい人工浜が一望できる
洒落たカクテルテーブルを挟むように置かれた三人掛けのラグ·ソファは身体が沈むほどふかふかで、硬い椅子になれている腰は、浮遊感を訴えている。
隅に置かれたスタンドシェルフには、格式の高そうな花瓶に、名も知らない花が一輪添えられていた。
愛子「素晴らしいお部屋ですね」
海神「いえ、世辞は結構ですよ。記者の貴方なら腐るほど見てきたでしょう。こんな部屋は。」
愛子「そんなことは無いですよ。パイプ椅子と折り畳み机に案内されたこともありますしね。」
海神「中々冗談がお上手なようで」
海神「して、ご要件はなんでしたかな」
愛子「最近、この島の開発に力を入れている威座涛コンツェルンさんに是非取材をしたいと思いましてね」
海神「それで私に。良いでしょう、なんなりと」
愛子「まず、この島の開発の理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
愛子はボイスレコーダーとメモとペンを出しながら、そう訊ねた。
海神「無論、立地ですよ。パンフにも記載してありますが。」
愛子「それだけでは無いのでは?と思いましてね…どうです?」
海神「I県の県庁から2時間程で着けるアクセスの良さと、海産資源の多さ。海もきれいですからね。あまり近辺を輸送船が通ってないこともあって、かなり透明度が高い。」
海神「モダナイズすることによって十分に集客できると考えました。これによって我が社のローカル·リクリエーション能力をアピールしたいと考えています。」
愛子「なるほど、立地だけではなく環境の良さ。御社のアピールになるということですね?」
海神「そのとおりです。威座涛コンツェルンはご存知の通りデパート業を元に発展してきました。ですが、今の時代ただのデパートでは人は来ません。
だからこそ、地域の良さ、田舎の良さというものを残しつつ、それをもっと発信していきたい。そう考えています。」
海神「確かに急な変化に対し、戸惑いを見せる島民も多くいます。ですが、彼等もいつか私の提案の良さを理解してくれると信じてていますよ。この取材を通して、また一歩、威座涛と私のことを知っていただければ、と思います。」
愛子「ありがとうございます。地域密着型の企業は海外でも一定の地位を築いていますからね。そこら辺も書かせていただきます」
海神「ありがとうございます。では、帰りは部下に案内させましょう」
愛子「あ、すいません…先にお花を摘みに行きたいんですけれど…」
海神「あぁ、なるほど。この部屋を出て右手の突き当りです。」
愛子「ありがとうございます。」
ートイレー
愛子「さてと…アン?パソコンがありそうな場所はわかる?」
アン「いえ、全く……最悪、何処かの配線に繋がれば行けなくは無いかも知れませんが。把握に時間がかかりますし、何より目立つかと。」
愛子「そう…だとすると流石に厳しいわね…」
愛子「これ以上は怪しいと思われちゃうし…」
一人と一つが頭を悩ませていたその時
女性の声「…潜入成功♪」
仕切り壁の外から、そんな気楽な声がする。
愛子「ッ!!」
少女の声「すごいザル。警備ザルすぎない?」
愛子は何事もなかったようにトイレを去ろうとするが、ガッツリと侵入者と目があってしまった。
愛子「……」
愛子は素通りしようとしたが、二人が全く同じタイミングで反射的に
女性「動かないで」
愛子「な、なに!?」
愛子は怯えた振りをして誤魔化しを試みる。
女性「ちなみに、動けばこの子は容赦なく撃つわよ」
愛子は頷いて動きを止めた。
女性「…良い子ね。そのままステイ、ステイよ」
少女「…メモ…ペン…あの膨らみ…ボイスレコーダー?」
少女「隊長、この人多分記者」
女性「あらま、じゃあ何か知ってそうね」
女性「ねぇ貴方?」
女性は愛子の顎に指を添えるとクイ、と持ち上げた。
愛子「ひっ!」
愛子は驚いて身体を震わせる。
女性「このビルの…保管庫の事知らないかしら。…教えてくれないかしら…」
女性「勿論お礼は弾むわよ?」
愛子「し…知らない!」
愛子は首を横にブンブン振りながら必死の声を作った。
女性「…どう?」
少女「つまんないの。嘘ついてないよその人」
女性「そう、じゃ。…殺っちゃって良いわよ」
少女「おっけー」
にやりと笑って少女を拳銃を向ける。
愛子「や…やめて……」
愛子は尻餅ついて後退りをする。
そこに一つの電子音声が響いた。
アン「……待ってください」
少女「…何?なんの声?」
アン「デュナミス。私をポケットから出してください」
愛子「えっとえっと」
愛子は慌てた仕草で取り出すが、手が滑り地面に落としてしまう。
女性「…デュナメス?」
アン「はじめまして。私は電脳ナビゲータのヴェータと申します。」
女性「それで?」
少女「…」
少女はトリガーに指をかけたり離したりと落ち着かない様子だ。
アン「確かに私達は部外者で、現状、貴女方のお役には立てないでしょう」
アン「しかし、私は高性能な電脳端末です。ここのメインコンピュータにアクセスさえ出来れば、システムをクラッキングすることで、安全で確実に保管庫への道を提供できます。」
女性「安全で確実。…そんなの信用できると思う?」
アン「ただのICレコーダが流暢に喋る、というだけでも技術の高さを評価して頂けないでしょうか」
女性「それもそうね。…そこは評価してあげるわ。…それで?貴方を信用する材料にはならないわ。ほら、銃下ろして」
少女「ちっ」
アン「内部構造を知らないのはお互い同じ。であれば協力するべきではありませんか?
貴女方は金品が得られ、私は新しい持ち主を探す手間が省けます」
女性「金品…ね、まあ良いわ。…一理ある。賢いAIで良かった。協力しましょう」
アン「あぁ、良かった。話のわかる方で助かります。」
女性「まずメインコンピュータね。…どこにあるのかしら」
アン「デュナメス。しっかりしてください。立てますか?」
愛子「あ、ありがとう……ヴェータ」
愛子は落としたアンを拾い直した。
アン「私は精密機器です。落とさないでください」
愛子「ご、ごめんね」
女性「…先が思いやられるわ…」
アン「私もです」
少女「綾も。…あっ、やべ」
女性「…名乗っちゃだめって言ったでしょ…」
綾「ごめんなさい…」
愛子「…えっと、私……どうしたら?」
女性「…邪魔にならないように後ろに下がってなさい。警備を見ても落ち着いて」
愛子「は…はい」
愛子は悟られないようにアンを強く握りしめた。
女性「大丈夫。この子…綾ちゃんは、強いわよ」
アン「では、メインコンピュータを探しましょう。それが最も効率的です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます