一年生GW編
オタクな忍者も巻き込んで
六番:変人
四月の終わり。
特に今回は土日が重なるため、
しかしスメラギ・真
高校生になるまで学校に通ったことがない。それまでは通信教育による家庭教師や習い事で日々を過ごしてきた。勉学に
しかし
では友達と休日を過ごす、というのも真琴の頭には浮かばない。なぜなら彼にとって友達や友情は未解明な
別に入学当初から友達がいなかったわけではない。むしろ入学当初であれば友達と言えたであろう人物は二人いた。
しかし真琴は初めて見るイジメに下手に関わり、一連の流れでハゼガワ・
イジメから
アイゼン・遮
遮音も友達という
しかし彼のおかげで焼きそばパンを買うコツを知った真琴は、お礼のメロンパンを
「遮音、真琴だけど……お昼一緒にいい?」
『クラスの
「
ぶっきらぼうな返答を慣れた様子で受け止めつつ、真琴はここ一週間近くの出来事を少しずつ思い出す。
アミティエ学園は
世に
男子校というだけあって、女子生徒はいない。女性
そのせいで
真琴は決闘を利用してイジメの主犯であったマナベ・実流を
イジメによって遠巻きにしていたクラスの同級生達が、決闘後にいきなり親し気に話しかけてきたのだ。まるでイジメなど最初からなかったかのように。
旧知の仲のように真琴に話しかけてくる生徒達の中には裕也と広谷も姿を見せていた。そのことに不信感を
助けてくれなかった、無視をしてきた。そんな相手が今になって仲良くしようと話しかけてくる。未知の生命体を前にしている気分が常に続いた。
イジメに関われば自分が標的になることについて、真琴は身をもって痛いほど知った。だからといって変わり身が速すぎればついていけない。
大体広谷と裕也に関してはかなり険悪になったはずなのだが、それでも仲を
そのことが余計に真琴が友情について悩む要因となった。しかし真琴が今一番気にしているのはそれではなく、目の前の光景だ。
白い壁の中に目立つ岩
真琴もできれば関わりたくないのだが、
「メロンパンあるよ。確か
『……美化委員会が管理する植物園の裏手なら人気が少ない。そこにいる』
メロンパンを買って良かった。そう思うと同時に遮音の優先順位において、真琴よりもメロンパンという事実に
必死に後ろをついてくる壁布を見ないようにしながら真琴は植物園がある方向へ足を進める。頭の中では美化委員会という単語が引っかかっていた。
2222年。鬼が蔓延るため、ドームで保護している場所以外は、2030年
おかげで資源は大戦前よりも貴重となり、第一次産業である農業や
特に
エネルギー問題に関しては人工生産可能となったエリクサーという物質精製技術によってクリアされた。副産物である
だからこそ通貨や
焼きそばパン一つ買うにも電子学生証が
タッチペンで字の練習し、読み上げソフトを活用することで正確な音読
様々な観点から現在、人が住まう場所は極端に制限されていると言っていい。下手に
人々や保護している自然を区切るのがドームという街を
このドームによる区切りを格付けした上で呼ぶ名前が保護区である。アミティエ学園はB1保護区イケブクロシティ内にある学校だ。
保護区から別の保護区を移動するには
なのでアミティエ学園では部活動という物がない。運動するための場所も少なく、校外交流や体育会系部活による大会
代わりに
一年A組担任であるシラス・矢
しかし四月も終わりとなり、全員が所属先希望の手続きをしなくてはいけない時期と言われてしまい、真琴はどうしようかと迷っている。
とりあえず遮音に出会ったら相談してみようと思い、足を急がせる。追いかけてくる壁布も真琴に合わせて速くなる。周囲は一体あれはなんだと注目が集まる。
そんな中で、走る壁布ではなく真琴に注目した人物がいた。その人物は
「言いたいことは
「カツアゲっていうんじゃないの、それ!? 僕だって最近図書室のデータベースでライトノベル関連を調べたからね!」
若者にわかりやすく現代をモデルにファンタジー要素などを取り入れた物から、とことんまで現実を追求した青春ものまで様々なジャンルを
今まで厳格で古式な
「図書委員会はああいうのが好きな奴が集まりやすいからな。学校費用でリクエスト電子書籍を
「そ、そうなんだ……僕も
言いながら真琴は周囲を
桜の時期が終わったため、
真琴が目を
「ビニールハウス内は美化委員会の
「う、うぅ……写真集は高価だし、実物は
「そういえば委員会はどうするんだ? できれば委員会までお前の
「
申し訳なさそうにしつつも遠慮なく教えを
まずは生徒会。アミティエ学園では生徒会長、副会長、会計と書記に二人ずつの計六人体制会がある。ここを頂点に八つの委員会が公平に並ぶ。
どの委員会にも討伐鬼隊に入った際に役立つ能力育成を目指しており、昔はもう少し多かったが、効率的に減らした結果が今の数である。
保健委員会。その名の通り負傷者を運ぶなど、授業の欠席を担任に伝えるなどの役目を持つ。月の最後には保健室利用者のデータを割り出して提出。
将来的に回復系プレートを持たずとも、
広報委員会。外部に向けた方法発信から内部向けのSNSまで。あらゆる学園内情報を取り仕切る集団。ネットワークに
顧問は三年C組担任サザヤ・竹
情報を操作することで印象操作を始めとした、情報戦にて活躍する人材の確保。また機密情報流出を防ぐプログラム生成も
体育委員会。学校の顔役として
顧問は一年C組担任マツ・夕
図書委員会。電子書籍データベースの管理や
顧問は一年B組担任ハナミチ・桐
情報を保有する場合、データよりも紙媒体の方が安全性が高いことを
学級員会。各クラスの代表。打ち上げや文化祭においての行事内容取り決めや集計を担うまとめ役を集めた会。
顧問は教頭であるフタミ・鷹
討伐鬼隊ではチームとして活動することが多いため、四十人規模をまとめられる人材育成としてこれ以上ない最良の活動内容である。
風紀委員会。学園内の
顧問は二年B組担任ハジマ・
人が集まれば問題が起きやすい。それらを
美化委員会。貴重な植物の育成やそれらを
顧問は二年C組担任ヒトシズク・
用具委員会。学校内全ての精密機器から備品まで全て管理し、補修を行う。機械工学に関する知識が必要となってくる。
顧問は三年A組担任キソ・
討伐鬼隊では車を使うことが多いため、故障した際に直せる者がいるだけでかなり違う。また多くの機械を直せるだけで、仕事効率も
ここまで話を聞いた真琴は全てを
「まだ希望の段階だが、
「えっと応急処置を学べる委員会だよね。確か先生って……いいの?」
養護教諭であり、肉食系女子代表の筋肉大好きで男子高校生に興奮するマチ・未森を思い出す。悪い人ではないが、危機感を持ちながら接する必要がある。
「別に先生と
「なるほど……なんかたくさんあったけど、万桜先生なら知ってるし風紀委員会とかいいなぁ」
しかし遮音はあからさまに
その気配に気づいた真琴は改めて風紀委員会の内容を思い出す。武力行使可能の
「最初に言っとくぞ。風紀は脳筋が集まった暑苦しい上に
「休日返上は別に大丈夫だけど……
「そこか。変な所でお
「いや休日は本当になに過ごしていいかわからなくて……それに最近変なのがついてきてるし」
そう言って真琴は、ビニールハウス横の大きな樹に
あえて無視していた遮音も仕方なく、花柄の布に目を向ける。ばれていないと思っているのか、それとも
「どう思う?」
「
真琴も遮音の言葉を否定するほどの説得術は持っていなかった。むしろ否定できる者がいたとしたならば、
しかし花柄布は一向に動じない。例えその布をめくって内部を見る者がいてもだ。実際目の前で約二名があえて内部を
小声で少し話した後、花柄布内部を見ていた二名は真琴と遮音に近付く。赤いブレザーを着ているが、顔つきや雰囲気から上級生だというのがわかる。
一人は学校指定の赤いブレザーを
しかし気さくそうな顔なのだが、制服を
背後にひっそりと立っている友人に対し、花柄の裏側について大笑いしている。よく見れば
もう一人は学校指定の赤ブレザーを着ているが、その下に白のパーカーを着ており、フードで顔の上半分近くを隠している。
首筋まで
手足が細長く、パーカーとブレザーを重ねているのに厚みを感じさせない
「あっはははは、おもろいもん見せてもろうたわ! お、
「……こ、これはライトノベルでしか見られない方言の一種!?」
「お前はもうライトノベルから知識を得るの止めろ。で、
「遠慮ないなー、こう見えて
そういえば、実流と決闘する日に聞いた覚えがある、くらいまでしか思い出せなかった。実際はすれ違い、声を聞いていたのだが、そこまでは無理だった。
遮音はヤガンの名前に反応したが、それ以上
「いやー、まこ坊には
そう言って古寺は密閉容器を真琴に渡す。
具材は決して
話を聞けば家庭科実習で作った残り物らしく、古寺は颯天が作った大量の失敗作を食べすぎてお
「
「海苔なんて高級品や! 海が黒くなって以来、海産物は全部高級品やで! 学校の実習でおいそれと使えるかい!」
「海水を再現した
「せやな。どっかの誰かさんが実習で米を巻くだけの簡単作業でああなると思ってなかったら、こんなにヒートアップせんかったわ」
古寺の余計な一言に颯天は無言で首
一体巻き寿司でどんな失敗をしたのか気になった真琴だったが、横から巻き寿司を次々食べていく遮音に気付いて慌てて自分の分を確保していく。
「あんな、まこ坊。決闘で
「え!? 本当ですか!?」
決闘には学校
真琴は実流との決闘を行う際、三人にしか賭けてもらえなかった。その内の一人が遮音であるが、残り二人の正体は知らない。
賭博という内容であるため、名前を明かさないのが
「そこの花柄や。いい加減隠れるのやめぇや。話したいことあんなら姿現した方が得やで。時は金なり、されど金は時にならずや」
「え、えええええええええええ!? そこの変質者が!?」
「
「ぼ、僕あんな変な人知らないですよ!? しゃ、遮音は!?」
「……ナイヨ」
明らかに片言な
真琴が遮音の腕を掴み、死なば
花柄布は最初
白いニット
目の色は黒く、
しかし真琴としては胸ポケットからはみ出ている女の子の姿をした人形が気になった。それをマスコットストラップだという知識が真琴にはまだない。
「ど、どちら様ですか?」
「失敬。
「ラノベニンジャ!?」
「違うでござる。拙者はオタク
横で聞いていた遮音が、どうでもいい、という顔で二人を眺めていた。背後では古寺が笑いすぎて颯天の背中を叩き、再度首を絞められていた。
真琴はライトノベルで読んだ忍者の登場に
「拙者、ラクルイ・波戸と友人……と言える立場にいたでござる。しかし
少しずつ声が小さくなっていくが、真琴の耳にはしっかり届いた。目の前にいる覗見は真琴がイジメに関わる原因となった人物の友人。
真琴の思考が
今でも忘れられない存在として真琴の脳内に
「だから、その、拙者は……しからば
言葉を探していた最中で
予想以上の身のこなしに真琴だけでなく遮音も
拾い上げたそれは
「それはあれやろ。ときキスっつー、大戦前から残ってる
「く、詳しいんですか?」
「二次元は金になるんや。特に人気作及びキャラクターを売りにしているのは固定ファンが
「へー。恋愛ゲームって恋愛するんですか? 誰とゲームするんですか?」
真琴の問いに古寺の
まずネットに
二次元の可愛い女の子と恋愛シミュレーションを行う一人遊び用、をどう
「あ、あー、あれやな! 次は移動教室やし、はよ戻らんと! じゃ!」
「そういうことだ。自分で調べてくれ、スメラギ。アイゼン、なんでもかんでも教えると本人のためにならんぞ」
「なんか颯天さんには言われたくない気がする」
「あ、この人形は同じ教室なら遮音が返してくれないかな?」
「断る。それよりも……五月六日は暇か? 前に言っていた奢り、その日ならいいぞ」
「う、うん! 大丈夫」
密閉容器とマスコットストラップを持て余していた真琴だが、悩んでいた休日の一つに予定が入り、浮かれた気持ちになる。
しかし放課後にて様々な予定が
そのことに気付かないまま真琴はひたすら浮かれていた。学生時代の休日の過ごし方を一切知らなかった真琴に対し、現実は容赦なく
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