データベースより
番外壱:文書
・船の上で書かれた日記
明日には南の
この船には
親友、
しかし南の離島にて
私にも愛した女性がいる。彼女との間に
我ながら最高の人生だ。真実の愛を手に入れ、
早く太陽が
私や尊が死ぬ可能性ももちろんあるが、それでも必ず悪鬼羅刹王を倒す者がいる。彼の者さえ倒せば、鬼はいなくなるのだから。
いつかこの黒い海が青くなる日がくるはずだ。大戦前の貴重な写真でしか
私達は果て無く続く豊かな大地と青い海、そして際限のない大空を子供達に渡したい。ドームによる保護区で守られる生活は、自由を
胸が高鳴る。
横で同じく日記を書いている尊も同じ気持ちなのか、彼の
彼とその妻は最大規模であるこの討伐作戦の主導者だ。そのため自らに
しかし作戦さえ成功すれば対面できるのだ。彼は心底
私も帰ったら息子達になんと話しかけようか。それとも妻に渡す愛の言葉を探すか。迷ってしまうが、どちらにもかける言葉は決まっている。
ただいま。この言葉こそ短くも
そろそろ
愛する家族よ、親友の家族よ、本土で
・船の上で書かれた日記(字が大きく
体が重い。これを書くことすら
最初に聞いてほしい。すまない。私達は大前提を
ああ、どこから話せばいいのか、頭がまとまらない。いつまでも消えない血の
弁明したい。しかし事実は変わらない。それでも聞いてくれ。こうするしかなかった。私達は未来のため、子供達のため、愛する者のため、
世界平和という理想は同じだったはずなのに。どこかで捻じれてしまった。まるで鬼の角のように、私達は一本筋でいられなかったのだ。
結論から言おう。南の離島に鬼など、いなかった。私も最初は意味がわからなかった。人がいないのは当たり前だが、
荒れた大地が広がっていた方が良かった。しかし目の前には青々とした植物に野生で生きる動物。大戦前でしか目にできなかった自然の
清らかな水源、熟された果実が
しかし生きていた。ならば歩いて原因を
今でも
だからこそ私達はあの道を選ぶしかなかった。世界平和と口では述べながらも、全く逆の結論をぶつけるしかないほどの事実。
鬼を発生させたのは――――
世界大戦。今となっては失われた
人間と見れば見境なく
鬼、ドーム、能力保有プレート。その全ては戦争利用の物であり、多くの化学薬品を利用したことで研究チーム、煌家と呼ばれる全員が目に異常をきたした。それが赤い目の正体。
彼らの悪行全てが南の離島で放置されていた研究所に残っていた。さらに最悪なことが書かれていた。世界中に散布された鬼を発生させる薬品の効力は、地球の
しかし煌家の血は重度の遺伝子
この時点で赤い目を自慢としていた多くの者が声にならない
私や尊も例外ではない。どんなに息子達が子供を残そうとも、あと百年。孫かひ孫までしか残らない計算だ。私が愛した妻にこんなことは伝えられない。
さらに資料を調べていけば、化学薬品の効能は地中に
困ったことに仕組みについてはさっぱりだ。開発者の名前はキリフダ・
なんにせよ悪鬼羅刹王などいなかったのだ。いや、あえて
人間が何千年戦争をしてきたか。何兆という死者を出して来たか。その全てが鬼となって私達の前に現れている。それが五百年は続き、それなのに人類は減少していく。
鬼を発生させる化学薬品に対抗する中和薬。これを世界中に散布すれば、十年ほどで鬼の発生を失くすことができるという。
強力な薬品であるため、自然に
鬼のいない世界。それは大戦時の世界に
事態は最悪だ。各国に能力保有プレートは散らばり、鬼に対抗するための兵器も保有され、討伐鬼隊は
保護区のドームはあくまで鬼から身を守るためのものであり、戦争兵器には効果がない。十年後、私達の息子が
その時代に鬼の脅威が
私はこの南の離島で見つけた全てを無視するべきだと主張した。息子達に戦争を味合わせるくらいならば、鬼と戦わせた方がましだ。
戦争は人間同士の
しかも戦争では民間人も
しかし尊は全て公開するべきだと主張した。人間を信じ、鬼を倒し、人は手を取り合って生きて行くべきだと言った。
彼ならば私の意見に賛同してくれると思っていた。だから
最高の親友だと思っていた。しかし主張一つ
そして変化が起こった。南の離島に鬼がいなかったのは、人間がいなかったからだ。人間がいるならば、鬼は発生する。
私達の口論に
現れた鬼は多くが五行鬼、病鬼は見当たらず、妖鬼がほどほど。
船に乗っていた者の多くが
半乱狂となるしかなかった。私には本土に残してきた愛する妻と子供がいた。彼らを置いて死ぬことなどできない。ましてや人間の手で死にたくなかった。
主張した尊が死んだことにより、負けを
煌家が残した文書を
その際に気になった資料を私は
船に戻った私達は波に揺られている。海中に石が
もしかしたら波音に
それでも私が尊を殺した事実は変わらず、今も指先が
また一つ、水面に落ちる音が聞こえた。もう寝よう。これ以上聞いていたら狂ってしま……いいや、
・スメラギ・
いきなりこのような手紙を送って申し訳ない。本来ならば
最初に謝罪申し上げる。本当にすまない。私は
しかし私自身も限界が近い。意識がまともである間に貴方に預けたい大事な物がある。血で
キリフダ・三葉。彼は天才だ。この博士は煌家があらゆることをもみ消し、忌まわしき血を広めることで地位を確立するのを
残念ながらアニマルデータとアンロボットに関する項目は現時点では再現できない。いや、正確には技術が異次元すぎる。文明自体が違うと言ってもいい。だが重要なのはもう片方だ。
煌家の血には大きな遺伝子欠陥がある。それにより
この病気は病院生活では問題ないが、
そして百年ほどで人類の半分以上が血を残せないのは、この病で起こる熱が関連している。主に男児の
つまり熱への
私が貴方にこの資料を
南の離島で見た物全てを彼らは知っていた。それを承知で我々を南の離島で討伐成功を
それだけではない。彼らは南の離島で見た全ての口外を禁じ、少しでも口答えした者はその場で殺された。後にその者の家族も殺されている。
今の私は半分
私の部下に
私は近々本格的に狂う。昨日も夢の中で鬼を殺そうとし、気付いたら息子の首を
いやむしろ狂って死にたい。狂いきれずにいるのが苦しい。ずっとずっと苦しくて、しかし打ち明けられない。私は自分の正義を信じ、親友を、尊を殺した。
だがキリフダ・三葉の資料を目にするたびにもっと早く見つけていれば、と頭に虫が
私は私自身しか信じなかった。その結果がこの始末だ。命を
すまない。本当にすまない。このような一方的な謝罪と懺悔を貴方に言いたいわけではなかったのに、筆が止まらない。ああ、血の臭いが鼻を
また私は狂う。どうか私が死んで数年が経過してから、貴方が
私が死んですぐに開発すれば関連を
水音が聞こえる。人が落ちる音だ。ああ、もう時間がない。どうかお願いだ。私が残せる最後の良心を、どうか
身勝手なのはわかっている。それでも、もう、これしかない。もしも貴方が人を信じ、鬼の
そこに煌家の全てが
命を賭けるに
・脳波測定による
ワタシハナニヲシテイルノダロウ。コノ手ノ中ニアッタ、花ノ
アンナニ美シイ花ヲ、ワタシハ手ニイレタノニ、オッテシマッタ。真実ノ愛ノヨウニ
スマナイ。スマナイ、スマナイスマナイスマナイスマナイスマナイスマナイスマナイ……。
シカシ子供タチヲ、オイテ、イケナイ。ワタシノ妻ハドコダ。イヤ、ドチラモ首ヲ
アア、子供ハドコダ。私ノ大事ナ、友情ヨリモ優先シタ、私ノ、ワタシノワタシノ、ワタシノモノ、ダ。アレハワタシノモノダ。イヤ、ワタシガコロスベキモノダ。イヤ。
ウゥウウアァァァアアアア。チガウ、イヤ、ソウダ、ソウジャナイ。水音ガヒビク、
血ガ、鼻ヲ、視界ヲ、掠メル。イケナイ、行ケナイ。オイテイケナイ。オイテ逝ケナイ。チガウ置イテ生ケナイ。生カシテ置ケナイ。イカシテオケナイ。
ソウダ、ソウジャナイ。イヤ、デモ、チガウ、ソウダ、妻ハ、ワタシガ、ポキリ、トオレタ。アア、ソウダ、ポキリ、ト折ッタ。ワタシガコノテデコロシテシマッタ。
ダカラ、コドモヲ、ノコシテ、イカシテオケナイ。ドコダ、カワイイ、ワタシノ、コドモ。フタリノ、フタゴノ、ダイジナ、コドモ。セカイヨリモダイジナ、タカラモノ。
アア、ジャマヲスルナ。コロスゾ。イタイ、イタイ、イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ。
イタ、イタ、イタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタ、ミツケタ。
ソコダ。カクシテモワカル。ワタシノタカラモノ。アマイニオイガスル。コドモトクユウノニオイダ。イマコロシニイク。オイテイカナイ。イッショニ、逝コウ。
(その後の脳波は人間と判断できる物ではありません)
・まとめ
以上、全てがアイゼン・
なお上記全てが
この文書全てを
全ての保存データをスリープモードに移行します。またの
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