三番:手続き
化学室でビーカーを洗っている最中の
それがいまや
「というわけで、先生!
「あー、その前に……
「決闘やで、先生! そんな
「古寺が
声はあっさりと遠くへと消えていき、矢吹が仕方ないといった様子で
残された矢吹はビーカーを洗うのを再開しながら、相手の名前と
日時は本日放課後のすぐ。それを聞いて矢吹は洗い終えたビーカーを置き、
「それは……悪くないな。うん、むしろ、良い」
「本当はゴールデンウィーク後にするかどうか迷ったのですが、善は急げです!」
四月も終わりを見せ始めた時期。あと少し
しかし真琴は先刻、実流に
なにより現時点が一番やる気があるのだ。この勢いで
「GW後にしとくとむしろ
矢吹は真琴の指定日時に対して満足げに
真琴が首を
そういえばと真琴が、保健室で
「どんな結果になっても
「それが先生の能力なんですか?」
「一応な。おかげで
しかし考えてみれば
「ま、その友人はいまや隊長様として
「あること?」
「鬼を退治する最中、どうしても殺す必要があった。俺の指示で友人が恩師に
そう言って矢吹は
真琴は色々な人に様々な事情があることを知る。表面上だけでは掴めないそれに
「で、どうなんだ? 相手は
「え? え、でも僕はまだ一回も使ったことが……」
「じゃあ勝てないか?」
「勝ちます」
短時間で男前を上げたもんだと感心した矢吹だが、勝つかどうかはまだ決まっていない。能力で
能力的に真琴の方が有利だが、実流は使いこなしている経験値がある。最終的には意地の張り合いになるだろうと矢吹は
「……よし。思いっきりやってこい! 勝ったらGWで焼き肉
「全力で勝ちます!!」
焼き肉と聞いて真琴はさらにやる気を見せる。やはり男たるもの肉だよな、と矢吹は坊ちゃん相手にも通じる真理を見つけた気分だ。
職員証をポケットから取り出し、職員用の
決闘内容の確認メールが真琴と実流の学生証に送信される。
日時は本日放課後三時。
矢吹が真琴にバトルチップ相場アプリを起動してみろと
一学年にクラスは三つ。一クラスにつき約四十人。三学年合わせて約三六十人の計算となるが、アプリ内では
「賭けに関しては中等部も参加できる。決闘は高等部からだ。つまり七百二十人は参加できるんだが、これは
笑う矢吹に対し、真琴は画面から目を
実流に賭けた人数は現在五百十二人。その数は少しずつだが
逆に真琴に賭けた人数は三人。その数からは一向に上昇せず、配分量は大きいが明らかに
「ちなみに教師は参加禁止な。職業的にアウトだし、
「じゃあ僕に賭けているのは生徒だけ……」
真琴は三人の内一人は確実に遮音であると自信が持てた。そのことが
しかし残り二名はわからない。真琴は心のどこかで
この決闘を機に仲直りできたらいいと思うが、
「今の内にやれることやってこい! 後は本番だ」
「は、はい!」
そして電子職員証の通話画面を起動し、手慣れた動作でとある知り合いに電話を
「あ、
気安い態度で顔が見えない相手に話しかける矢吹は回転
「お前が助けた学生、そう、スメラギさんの
そこで職員証の音を出す部分が機械的な
矢吹はそれを見越した上で耳から職員証を離していた。しかし機械に限界を感じさせる音量は、人間の耳にも痛い物である。矢吹は片耳を押さえつつ、話し続ける。
「ちなみに内容がいじめっ子を見返す、だ。
通話相手の返答を意味もなく頷きながら聞いた矢吹は、相手の声に笑う。当たり前だろう、と言った。第三者からもフォローされていない現状。
真琴は
「お前な、あの、スメラギさんの息子だ。ちなみに母親の方な。正直
矢吹の言葉に通話相手は
その血を持つ息子が真琴なのだ。性格の大半は父親似だと思うが、少量だけ母親の
だからこそ賭けてみたかった。危機的
「……そいつな、命を賭けるに値する友情を探して来いって、
長い沈黙が降りる。矢吹は上体を
「お前も頑張れよ。俺は適度に見守るさ。御門隊長、
そう言って矢吹は通話を
少しだけ椅子を何度か揺らした後、反動をつけて立ち上がる。生徒の勇姿を見てやるかと決闘場へと歩き出していく。
学校中が
廊下を歩いていた真琴の前に
しかし目の前の二人は
見覚えがある立ち姿だった。実流と
「知ってるかぁ? 真琴ってやつ、自分のプレートで人を殺しかけたんだとよ! そりゃあ誰も賭けないさ! そこの二人も実流に賭けたんだとよ!」
大声で、明らかに聞かせる目的で響いた言葉に真琴は目つきを強くした。曲がり角にいた少年は姿を消したが、広谷と裕也は俯いたままだ。
決闘をすると言った手前、明らかな
しかも仲が良かった二人を使って。広谷と裕也は最初はお互いに沈黙していたが、最初に口を開いたのは裕也だった。
「俺、だって……自分が大切なんだ!! 嫌だけど、身を守るしかないんだ!」
「真琴くん、今なら申請取り下げできる。圧倒的に不利なんだ……やめようよ」
広谷の
すでに校内に設置された電子
もう逃げないと真琴は決めた。どんな結果になっても後悔しないと
「……人、殺しかけたのは本当か?」
裕也の言葉は真琴の心を
短い期間とはいえ一緒に
真琴はそのことが辛かった。否定しても信じてもらえない気がして、真琴は別の言葉を二人に伝える。
「見てて。僕は僕自身全て
「勝てるわけねぇじゃん。
「……僕も。痛いのは苦しいし、もっと楽な道が……」
「楽な道を選んだ二人は、どうして僕の顔を見れないの? 自分のため逃げたくせに、いまさら味方面はやめろよっ!!」
気付いたら叫んでいた。真琴はこんな激情が自分の中にまだ
裕也と広谷も同じである。
そして真琴の
「っ、僕は……僕だって、一人は嫌だ」
「じゃあ、なおさら……」
「でも、これは僕の戦いだ。だから二人に、無視を続けた君
強い輝きを宿す赤い目は
「それに僕が勝つと信じて賭けてくれた人を知ってる。友人、と呼べるような人じゃないけど……僕に勇気をくれた」
どれだけ話したら友達かわからない。どこから友情を語れるかわからない。入学式前に出会った二人ですら、こんなにも
だけれど二人よりも力をくれる。負けたら
「だから僕は勝つ。同情で止めるくらいなら、非情に見放して。その方が楽だ」
「……っ、行くぞ、広谷!」
「え、あ……うん」
真琴の冷たい声に裕也は耐えられなくなり、広谷を連れて地下へと向かう。おそらく決闘場に足を進めたのだろう。言葉通り、真琴を見放して。
これでいいのだと、真琴は自分に言い聞かせる。もう一度仲良くなれたらいいな、と考えた自分が
そうでないと足を止めて
「……よし、行こう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます