一番:入学後
入学式での
アミティエ学園の学園長であるリー・
深い
『という訳で、中等部から進学してきた君達には次のステップに上がる権利が得られる。その権利は手放すのさえ自由だ。よく考えるように』
そう言って梁は手の中にICカードサイズの銀プレートを見せつけるように
入学式が終わり
三週間後。四月も半ばになり、大分クラスにも
真琴はひと気のない
最初の一週間は順調だった。同じクラスで入学前に仲良くなった
まだ本格的な授
能力保有プレートを使用した
真琴のプレートは【
相手の
因果律に関する能力と担任の
身体能力を向上させるものではなく、だからといって相手を一撃で仕留めるわけではない。
現在の授業では
しかも真琴の能力からすれば、相手の一撃を受けること前提、がつきまとう。それはつまり
これで友人の裕也や広谷が
広谷の能力は【
裕也は【
能力を
事の
一人の少年を取り囲む同い年の少年達。片方はにやけた笑いを
それをあろうことか、楽しそう、と判断してしまった真琴が近づき、取り囲む集団の中でもよく目立つ優等生のような少年に声をかけた。
整えられた
「なにやってるの?」
「ああん?
「
真面目に紹介を始めた真琴に対し少年達は大声を上げて笑った。その声の
疑問よりも
「んで? 真琴くんはイジメ現場になんの用だよ?」
問いかけられた真琴が戸惑い、答えを出そうにも初めて聞く単語に
どれも良い印象のない単語ばかりなので、真琴は首を
アミティエ学園以外で学校に入ったことがない身であるため、この時初めて出会った学校内いじめ。それは真琴が想像できる物ではなかった。
「こいつ、C組のラクルイ・
そう言って実流は真琴に見えやすいように囲んでいた少年達を動かし、縮こまっている少年を
髪の色は地味な茶色。分厚い眼鏡の
ただ休み時間も机の前に向かってペンを動かしていそうなイメージが
「なんでプレートを売ると退学なの?」
「授業を受けてればわかんだろうが! プレートもない
プレートの使い方や注意
しかし真琴は売ったということが気になっていた。プレートは学園からの支給品だが、
「俺は
「それは情じゃなくて勝手だよ」
真琴は当たり前を言うように平然と、実流がしているのは手前勝手、と言いのけた。これには実流だけではなく、波戸という少年も開いた口を閉じられなくなる。
悪意があればまだマシだったが、真琴は
明るい赤の目は煌家の血を強く引いていることを示している。その目で
「波戸くんはどうしたいの? 僕が協力できることなら力を貸すよ」
笑顔で話しかける真琴に対し、波戸は
今も赤い目を強く残しているのは有力者や
輝かんばかりの赤目は毒のように波戸の神経を
「……っさい」
「へ?」
最初は小さい声でなにを言われたのか聞こえなかった真琴がもう一度聞き返す。すると今度は耳をつんざくほどの声が廊下に
「うっさい! スメラギ家のお
言いながら真琴を
今の
品行方正に見えていた真琴が実はイジメの主犯だったのではないかと。
その日から真琴の生活は激変した。前は気さくに声をかけてきた裕也と広谷は
所持品を
逆に近寄ってくるのが実流や彼に似た悪意のある少年達で、真琴を取り囲んでは言葉で攻撃し、守ってくれるお友達もいないお坊ちゃんと馬鹿にしてくる。
五日
真琴がイジメについて一切知らなかったため、矢吹は
「正直解決方法が、本人による、という
思わず真琴が職員室にいた教頭の役職についている男性の頭部を注視する。彼は視線に気づき、盛大な
「俺も相談に乗るしかなくてな。だからといって校内で非公式の
「な、殴り合いって、そんな……いやでも武術は習ってきたし、あとは相手の実力次第か?」
「今初めてお前がスメラギ隊長の
茶を
矢吹から差し出されたクッキーを
しかしそれ以上の方法を矢吹は持っていないらしい。そのことに対して矢吹自身も不満そうな表情を浮かべ、溜息をついている。
「裕也と広谷も対象になるのを
「先生のせいじゃないです。僕が無知なのがいけなかったんだと思います」
授業中に二人一組を作る時も外れてしまうことが多くなり、余った生徒として担任と組むのが増えた。それが
あの時
「じゃあ本当は秘密にするよう
そう言って矢吹は、ラクルイ・波戸が自主退学した、ということを真琴へ簡潔に伝えた。
埃っぽい階段の上で真琴は思考を働かせようとして、結局まとまらない事実に
アミティエ学園は討伐鬼隊を目指す者達が
しかしそれは卒業まで在学できたらの話だ。退学をしてしまえば、生徒達は自分の生まれた故郷に強制
波戸が住んでいたのはC4保護区。重要度も低い、低所得者達が自然と集まるような労働区でもある。彼は貧しい上に、大家族を
アミティエ学園に入学し、高等部まで在学すれば能力保有プレートが与えられる。これは
波戸は最初からそれが
もちろん
持つの定義として所有者であること。持ち主であればある程度
プレートには定期的に所有者報告データを討伐鬼隊に送っており、売却したのを手に入れてもすぐにばれてしまう。
だが高等部からは討伐鬼隊に所属するために必要な
それを失った学生の多くは自主退学するしかない。販売されたプレートは討伐鬼隊によって法の名の下で回収され、次の進学者に
つまり波戸は学ぶ目的で入学したわけではない。実流もそれをわかったからこそ、やる気のない相手に非情を
結局真琴が波戸を助けようとしたのは意味のない行動だった。あの時
銀色に輝くそれは加工が可能で、
「父さん……命を
裕也と広谷と仲良くなった時は心底
波戸や実流も話し合えばわかりあえるものだと当たり前のように考えていた。同じ人間で同一の言語を有しているならば、理解できるはずだと。
真琴は一度も赤い目を
それなのに今も廊下から聞こえる笑い声の中に自分の名前が混じる。スメラギ家の息子が裏口で入学し、
顔も知らない、話したこともない声だった。彼らは横で歩いている友人達と
その笑い声と初めて見た火鬼の姿が重なっていく。鬼はどこから来たのかわからない。しかし人間社会にも
鬼のように笑う彼らにすら友人はいる。友情を持っている。それが命を賭けるに値するのか真琴にはわからなかった。
本人にしかイジメは解決できないと言われても、まず真琴はイジメすら知らなかった学生初心者である。事態を把握するだけで
五月に入ってゴールデンウィークが来れば少し治まるものだといいと願いながら、結局パンは食べ切れずに残してしまう。
一度池に落とされて以来、鞄などは持ち歩くようにした。学生証や能力保有プレートは
しかしパンを詰め込む際に手にしていたプレートを体の横に置いていた。それを瞬時に階段を
真琴はその顔に見覚えがあった。実流と一緒に真琴を馬鹿にする仲間であり友人。イジメ集団にも友情があることに真琴は頭が痛くなりそうだった。
鞄を片手に
しかし真琴はそれどころではない。プレートの紛失は厳重注意であり、授業に強い
「よっ。ちょっくら俺の能力の実験用に使わせてもらうぜ」
そう言って実流はブレザーの胸ポケットに入っている自分のプレートを指差し、長い廊下の奥を見据える。途中曲がり角もあるが、一番奥は窓である。
窓の下には
四月とはいえまだ
実流は能力である【
しかし廊下に飛び散った血を見て安心と思えるはずがなく、真琴は慌てて倒れた少年に声をかける。それを
「お前のせいだ! お前のプレートが人を殺した! ざまぁみろ!」
「うーわー、かわいそっ! 退学けってーい☆」
浴びせられる言葉の数々に頭の中が白と黒で
真琴のプレートの能力で人間の頭を撃ち抜けるものではない。しかし少年の頭を撃ち抜いたのは確かに真琴の所持しているプレートだ。
証言してもどう転がるかわからない。むしろわかりたくないと頭が理解を
「いってぇ。死んだかと思った」
冷静に
しかし廊下には血が残っている。よく見れば赤い
少年を一言で表すならば、静か、だった。声もそれほど大きいわけではないが、耳に届きやすい。雰囲気も
「あれが噂の馬鹿集団か。弾丸速度で物を投げるなら周囲の確認をしとけばいいものを。校内にある
「……その、助かって嬉しいけど、なんで生きてるの? 頭が
「能力がそういった物でな。で、お前が噂のお坊ちゃんか。確かに詰めが甘そうな顔をしている」
言いながら首を左右に動かして調子を確かめる少年。あまりにも冷静なので、真琴が
「ほ、保健室! もしくは先生に健康
「必要ない。むしろ廊下の
そう言って音もなくズボンのポケットから自分の電子学生証を出す少年。画面に浮かんでいる名前を読めば、アイゼン・
遮音は手慣れた動作で通話アプリを起動し、事務作業のように
聞こえてくる相手の声をどこかで聞いた覚えがある真琴だったが、思い出せないまま遮音の通話は
「後は教師陣が奴らを
「それより痛くない? 本当に治ったのかわからないし、やっぱり専門的な検査を」
「いらん。大体人の心配をする前に自分の身を案じろ。あいつらはお前に殺人の罪を
「良くない!! 君でも誰でも、
しかし遮音は顔が近いと不満そうに
「
「違う。急激に体力を失った副作用だ。いい加減にしてくれ。俺はこれ以上誰かに助けてもらうわけにはいかない」
そこへ教師が数人、
保健室の主と呼ばれる数少ない女教師ハジマ・
「ジョー。お前んとこの生徒とマッスルの生徒がいるぞ」
「万桜先生。そのあだ名やめません? おかげで俺は真っ白な灰になったごっこを生徒からやってほしいとからかわれるんですから」
少女のように体が小さい万桜を見下ろしながら矢吹が何度目かもわからない進言を
青い目は吊り上がっているが大きく、
「いたっ、痛いっ! ああ、もう、ジョーでいいですよ。とりあえずその二人を保健室で落ち着かせてください。午後の授業は学園長から公欠
「ふっ、
「だから女教師の割に男子校で人気少ないんですって。同い年の
「思春期
矢吹と万桜が
「遮音
「ぐ、ぅ、う……や、やめてくれ」
しかし万桜が軽く
涙だけではなく鼻水で
「マッスル。吾輩が連行する故に放すがよい。どうせ吾輩のクラスでは次の
「万桜殿は一応二年生のクラス担当ということを忘れないでください。それでは私の生徒を頼みました」
そう言って夕鶴から万桜が遮音を受け取るが、
しかし万桜が言っていた決闘による賭けという言葉に引っかかる物があった。
担がれた遮音は降ろせと暴れるが、万桜は気にせずに、むしろ
午後の授業が始まる
鞄を片手に万桜についていく真琴だが、何度も視線で遮音の
しかしそれを具合が悪いと受け取った真琴が声をかけようとした矢先、保健室の
「うら若き少年の
「紹介しよう。我が学園には変態が数多く存在するが、その代表とも言えるべき養護
「
「貴様も吾輩のポニーテール武術を受けたいか?
話しながら遮音を廊下の床へと叩き降ろし、胸を
攻撃しようと髪を
「う、ふ、うふふふふ。金髪くんも良い体してるけど、
舌なめずりしてヒールの音を響かせながら近づく未森に対し、真琴は野生の
しかし相手は養護教諭であり、か弱き女性であると思われる。しかも学園内では非公式の暴力や戦闘は禁止されているため、逃げるか待ち構えるかの二つしかない。
遮音が立ち上がらないため、逃げるという
白衣の前ボタンは第二まで閉められているのに、胸の大きさや
フェアリーボブという
そして真琴へ顔を近づけてきた未森が
「でもぉアタシって仕事は完璧にするわよ。というわけで金髪くんはベットで少し体を休めましょう。万桜先生がいれば不足栄養素もわかるしね」
「え、あ、はい……えっと、僕は?」
「赤目くんはカウンセリング。目の下に
そう言って未森は打って変わって快活な
しかし言いながら未森の手というか指が小刻みに
不安に感じながらも真琴は遮音を軽々と背負う。未森は万桜の体を揺さぶり起こしてから保健室へと入り、養護教諭らしい働きを始めるのであった。
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