誠の友情は真実の愛より難しい
文丸くじら
入学前後編
友情を探して途方に暮れる
零番:入学前
「命を
スメラギ・
厳格な
和服の
学校に通ったことがなかった
春が近づいた朝。赤いブレザーを身に
和服しか着たことがなかった
その立ち姿を見た父親は
「出立の時間だ。時には便りを出せ。達者でな」
特別警護車両の発車時間が
「いってきます」
両開きの門を
アミティエ学園は別の保護区に存在しており、
保護区間を移動する場合、特別警護車両が手配される。
旧時代のワゴンバスに似ているが、使われている素材や設計は護送車である。
「失礼ですが、証書を」
「はい。こちらです」
隊員は
「現時点において
事務的な話し方であり、慣れたように言葉を続けていく。
「もしも
鬼。その単語を出すだけで隊員の目は厳しくなった。
それこそ
「
そう言って若い隊員は
右側の座席に
「鬼、かぁ……」
車両窓の外側では討伐鬼隊が綿密な打ち合わせを行っていた。一
その多くが
2030年。世界で大きな戦争があり、世界大戦と名付けられた。今でも明確な理由はわかっていないが、経済や宗教もしくは人間の心が原因だったと言われている。
世界大戦は五年ほど続き、各国が
鬼は
しかし
煌家は
その功績から各国で王位などの地位を
おかげで現在では人口の大半が赤味を帯びた目をしており、赤の色が強いほど煌家の血を
「学校なら、
鏡はなかったが、窓硝子にわずかながら映る容姿を
ブレザーの色が赤いのは、煌家の
中等部と高等部が存在し、卒業後の就職先は討伐鬼隊の
しかし鬼は
従って討伐鬼隊の戦闘員の多くは男性であり、アミティエ学園も必然と男子校となった。女性を一か所に多く集めると、鬼にとって格好の対象だからである。
保護区にはAからDのランクが付けられており、数字は重要度の高さを示す。A1保護区が政治などの主要機関が
しかしドームの機能は全て統一されており、討伐鬼隊の隊員数や大型武器の
かつて東京都があった場所に作られているが、保護区としての機能や働きから重要度はそこそこの物であり、住んでいる者も学園関係者のみだ。
「なんにせよ楽しみかも。同年代の子は近くにいなかったし」
赤い目を
白い街並みのA4保護区が少しずつ遠ざかり、
黒い水が白い
「海を
昔話のように聞かされた伝説を思い出すのさえ、暇つぶしの一つだ。
海の向こう。南の
それを実証した者はいないが、確かめようとして死んだ者は多い。
鬼の頂点に君臨する存在を頭に
「ん? なんだろう……」
窓の向こう側から視線を感じて背筋を
荒れた土地、百メートル先の小さな
護送車両の運転席からアナウンスが流れる。
『五行鬼を確認!
春先だというのに真冬のように寒くなった車内で、
今まで保護区で平和な時を過ごしていたため、鬼の
「え?」
正確には外の光景すら火と熱で埋まった。防弾ガラスを
「ひっ、わ、あ、うわぁああああ!?」
あまりの熱気に
鬼にも種類がある。五行鬼が一番弱く、属性で分別可能である。次に
さらに上が
それらに比べれば五行鬼など
(こんなの……本当に倒せるの?)
窓向こうで笑い続けていた火鬼が空を見上げた
「助け、てくれた? 隊長の……
一人の男が、火鬼と堂々と
男は
男が
『火鬼の
車内温度が元に
あれが討伐鬼隊の隊長格。修羅や夜叉の討伐経験がなければ就任できない、鬼討伐専門家の頂点に座する者。
アミティエ学園に入学するということは、彼らを目指すという意味。
B1保護区イケブクロシティ、アミティエ学園を中心とした街。その外観を例えるならば城下町である。
建物の多くは白い石や木材を使用しているため暖かみがあり、
見上げれば西洋の城をイメージした学園が街の中央に
そんな街並みを眺めながら
「キヨミズシティとは全然
住んでいた保護区との差に驚いた。和風に慣れていたせいで、洋風な
「ああ、いた」
保護区の出入り口で
薬品の
無精髭を撫でる仕草が似合っているが、逆に先生という職業に
「やー、少年。ようこそアミティエ学園の街へ。衛星
どこか
護送を終えた討伐鬼隊の隊員は
「
「え、あ、はい! ぼ、僕はスメラギ・
やや
中央エリアは保護区を代表するアミティエ学園。西には買い物ができる商業街、東には畑などを管理する農業街、北には
「まずは健康診断を行い、問題がなければ寮へ案内する。三日後の入学式と
「は、はい!」
「あー、それと……」
「スメラギの母親ってどういう人だ?」
「母上はお仕事が
「やっぱり……あー、あれだ。今のは忘れてくれ、
首を
討伐鬼隊の多くは男性隊員だが、
しかし父親が母親の話をする時、必ず険しい顔で腹を擦りながら苦々しく話す。とりあえず
「ん? けどスメラギさま……いや、スメラギさんの夫は討伐任務での負傷で
「はい。父上とは言っていますが、
母親の
本当の父親は
正直なところ
十歳の誕生日に叔父から本当の父親と母親の話を聞いた。だが実感が
なので
「あー、スメラギさま、隊長、いやスメラギさんは相変わらず
「あの、母上ってどんな人なんですか?」
「すまない。その話は
再度歩き始めた
診断結果も問題なしと判断されたため、北にある
「電子学生証はちゃんと持ってきたよな? たまーに保護区に忘れる
「えっと……こちらですか?」
「そうだ。まあ
そう言って歩きだした
電子カードによる身分証。生活の
交通機関の料金精算や
しかし
「お前、電子カード使ったことないのか?」
「はい。大体は徒歩の移動で
どこの保護区でも普及したシステムを知らない
仕方ないので電子学生証を壁面タッチパネルに触れさせることを伝える。座席に腰を落ち着けた後は、ネット
「簡単に言えば旧時代に存在した
世界大戦と鬼によってケーブルが
鬼も宇宙空間までは手が出せないらしく、衛星にあらゆる技術を
「財布に
「……えーと、つまり自分で操作しろってことですね」
技術的な話に対し、
人の体表面に流れる電磁波を
大きさは片手に収まる四角い
アミティエ学園の校章は三日月の船に桜を浮かべたデザインであり、制服の赤いブレザーに
「ネットや電話帳にアプリ? 父上に教わらなかったことばかりです」
「A4保護区のキヨミズシティから来たんだよな。あそこは古き良き日本を残す都としての側面があるし、スメラギさんも機械苦手だったからなぁ」
「建物もこちらは旧時代で言う都市型ビルなどをイメージしているようですし、保護区でもこんなに差が出るとは思いませんでした」
「ここは旧時代の東京を再現しようとしてるからな。ま、旧時代から見れば近未来都市なんだろうけどな」
世界大戦前の時代を
旧時代には鬼という存在はなく、今では失われた多くの技術が人々の生活を
しかし保護区では旧時代の風景を残そうとする動きは多く、保護区の
バスは桜並木を通り過ぎて行き、北の住居街に
「バスの使い方でこれだけ苦労するのならば買い物なども同じだな……ああ。丁度いいのが目の前に」
寮は西洋風の
「あ、
「フジ、お前は少し敬語使え。敬語。俺だから許してんだぞ?」
「もちろん
「スメラギ、このタメ口少年がフジ・
青い目が元気で
隣のハセガワ・
「スメラギ・
「うおっ!? すっげー
「僕の方こそよろしく。僕は
明るく
今まで父親の教え通りに生活し、友達と呼べるほどの深い仲になった同い年の子供はいなかった。それが
――もしかしたら命を賭けるに値する友情を見つけるのは
そう考えた
「それじゃあ編入生についてなんだが……」
二人は
仕立てのいいシャツとジャケットを着こなし、皺
夜。
寮の部屋は一人部屋から四人部屋まで種類があるらしく、大半は中等部の
最初は学校生活に慣れるため、一人部屋のまま一
部屋の中は
しかし
「とりあえず生活用品は揃えなくちゃ……」
思い出したように呟く。一時間前に発覚した、
大浴場と食堂は
その際にタオルは私物利用と知り、
「まあ、明日また
寮の三階東側に配置された一人部屋で充実した気持ちのままベットに
全てが初めてばかりであり、そのどれもが
これならば編入式も無事に終わるだろうと安心した
自分がどれほど無知であるかも知らず、本当の友情が真実の愛よりも難しいことも気付かず、穏やかな夢の中に落ちていった。
それらを思い知るのは、初めての学校内で起こるイジメを見た後である。
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