第3話

→上手のピンスポットにりな


神社参拝にブランドスカーフ?

高級なんだろね

乗馬鞭

馬蹄

エルメスとかグッチなら知ってる

私らが知らないからこその特別感

鼻につく成金臭

あ。ほどけた

風に流れる

なみが手を延ばして掴みかけた…

そのまま落ちてった…


あたしは立ち尽くし、まりえはただでさえ大きい目を見開いた

落…ち…た…

ケガしてる?

まさか死…

…んだら…

私たちのせい…なの…?

りなが自分で言います


あたしはかちんと来た


たちって言わないでよ私関係ない


りな?

あたしに問いかけるようにまりえがあたしを呼ぶけど

はらわたは煮えくりかえってる


関係ない!

私関係ないわ

関係ないのよ!


つっぱねた

そこからあたしは去った

あたしだけ!


→暗転!



→ゆっくり溶明


→たくさんの研修生がいるらしい場所

下手寄りの場所でりなが発声している

アメンボアカイナアイウエオ

切れのいい発音

自信に満ち溢れている


卒業見込みですか

バッチリですよ

せっかく内定もらったのに、入社できなかったら泣いちゃいますよ

はい。

そうです

母がまず入りたかったのが御社で

親子二代の夢でしたから

なりますよ

看板アナウンサーに

わたし自信ありますから


→きらきらと輝くようなりなだが、これは過去

今はピンスポットに取り残されている

(バックに流れるアメンボアカイナ)


気にしない

気にしてたまるか

あたしはあたし

一流アナウンサーは目の前だ

ここをやり遂げなかったら

東京きたいみないけん


→いきなりはっとなる

首を振る

悲しげに


居残り?

身が入ってないですか

いえ

もちろんやっていきます

やっていきます…


なんだろう

身が入らない

なんだろうじゃないか

ひとひとり見捨てようとしてるのだもの

身が入らなくてあたりまえ


でもわたし、わたし…


→溶暗


→溶明

雨の音を上手に聞きながらもの思いのりな


大手商社に内定したまりえが羨ましかった

コネクション

人脈

優良顧客の娘枠

そんなの聞いたこともないよ


いいね

まりえはいいね




→電話の鳴る音

りなでる


はい

うんあたし

正月は帰れんとよ

英語の…

特別講習あるけん

ん、局丸抱え

マスコミやりかたきたなかねー

おわハラよ←語尾下がります

え?

広田のじいやんが?

キノコ取りで遭難??

裏山知り尽くしとったでしょう!


→みるみる青ざめ


ごめんキャッチ入ったわ(怒)切るね


→入ってもいないキャッチを理由にブチ切るりな

舞台いきなり上手はけ

嘔吐する


→溶暗


→溶暗まま

違う着信音

オフでりなの声


これからですか

はい

じゃ

いつもの店で

はい


→切ったあとのツー、ツー、ツー…


→下手ピンスポットにりな

おしゃれしてる

カウンターバー

彼女の前にはカクテルグラス

りなは全く楽しそうではない


このあとですか

いえいろいろと

英語講習の準備もしなくてはなりませんし


え?

手相?

今ですか?

私のは普通の…


→のばした右手のひらだけピンスポ外の闇へ


決断の時?


→間

ややあって

思い切って質問する


あの…報道者の救護義務って…


→と聞きかけるが、相手がまだ手のひらを返してくれていないのに気づく


放してください

放…


→穏便にすませようと思っていた感情が、ついに爆発する


放せこのスケベ親父!

おまえのとこなんかぜってえ入らねえ!

あたしはな、あたしはな、あんたなんかのために危うく…!


→と呑み込み


レシートボードを持ってその場を離れる

ピンスポ外で、オフボイスで


お会計してください!


→暗転


→溶明

前を向いてしっかり歩き出すりな


アナウンサーになるんじゃなくて報道者になるんだ

ひとひとり見捨てるような奴がアナウンサー?

聞いて呆れる

あたしはあたしを許せないけどまずやるべきことをやろう

急ごう


→歩くりながどんどん早足になってゆき、本気で走っているところで


end


エピローグ


→上手からりなが、

下手からまりえが駆けてきて遭遇する

まりえは家で着替えた時のスポーティーなスタイル

りなはデート?っぽい、少し華美な…

でもドレスアップにそぐわない、ロープの束を肩に担いでいる

中央ではち合わせそうになる

少し気まずい


えと


あの…


→その先が出ないが、二人の気持ちは通じているふうだ

頷き交わし、正面に進もうとするが、たたらを踏む


立ち入り禁止の…


テープ…


テープを上手から下手へ視線でなめてゆく二人

りなが指差す


見て


そこにはあのスカーフが、枝に「結わえられて」揺れている

じっとそれをみつめているりなとまりえで



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

崖 2016 三連一人芝居用台本 めるえむ2018 @meruem2018

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る