第5話 初めてのデート(?)2
『ドリームランド』
この某テーマパークから苦情が来そうな遊園地は、三回転連続回転と約100mからのフリーフォールのジェットコースターを売りにしている、今人気のテーマパークである
他にも最恐といわれるお化け屋敷や豪華な噴水ショーも人を集める要因となっている
そんな人気テーマパークが夏休みはどうなるのか、言わずとも分かるだろう
…そう、ただの地獄である
遊園地に入った僕は人混みに流されそうになりながら基本的に彼女についていくばかりだった。今では後悔しかないが
軽くコーヒーカップと思えば、子供かと言いたくなるくらい回しまくる。係員の方が軽く青ざめながら心配してくれたが、世界が周り続けていて答えられなかった
そして平衡感覚が壊れたままぐいぐいと引っ張られて三時間待ちの後ろ向きのコースターへ。走り始めた瞬間にこれはダメだ、と察するも時すでに遅し。喉に強い酸味を感じたので、空中に消化しかけた朝ご飯を撒き散らさないようにと必死に口を抑えて終わった
フラつきながらパーク内の食堂の椅子に半ば崩れ落ちるように腰掛ける。日陰の席が丁度空いたのは幸運だが、今日この場にいる時点で今日の僕の運勢は最下位だったと確信できる
「おやおや…大丈夫ですか楓くん?」
「…これが大丈夫に見えるのなら眼科に行くべきじゃないか?眼鏡をかけてもう一度よく見てみるといい」
「失礼な!私は両目とも2.0ですよ!」
…なるほど、足りないのは常識か
彼女が少し頰を膨らませながらトレイを僕の目の前にゆっくり置いた。特有の匂いを発するその食べ物は、何時もなら美味しそうに見えるのだろうが…
…今は、余りにも重すぎやしないだろうか
「やはり昼はカレーライスでしょう!」
「何がやはりだ。毎日昼にこれを食べなきゃ気が済まないのか?」
だとしたら、凄まじい偏食である
もはや食欲など欠片も無いが、謎の使命感で彼女が運んで来たカレーライスを口に運ぶ
美味しそうに頬張る彼女には悪いが、味が全く分からない
というか、何でこんなに元気なのだろうか
「楓くん?本当に大丈夫ですか?」
「…あ、うん。さっきよりはマシになった」
「なら良かったです!私のせいで吐いたりなんなりしちゃったら、なんか後味悪いですからね!」
「…………」
後味って…
この子って偶に黒いところ出るよなぁ
あと自分のせいだという自覚はあることに驚いた。そう思ってるのなら少しは自重してほしいものだ
…まぁ、無駄だろうが
「ところで、午後はどうします?
大目玉のあのコースターとお化け屋敷には行くとして、あと何か行きたいところありますか?」
「あ、その二つは確定なんだ。いや、言っても無駄なんだろうけど」
「無駄ですね!」
「少しは否定してくれないかなぁ⁉︎
…はぁ、えーっと、僕は観覧車に行きたいかな。こういう場所に来たら毎回必ず乗ってるんだ。」
「子供ですか」
「観覧車好きの人全員に謝れ!!!」
僕が叫ぶと彼女はアメリカの人のようにやれやれ、と肩をすくめる
ちょっと待て。今それをしたいのは僕の方だ
「じゃあまずはあのジェットコースターに行きましょうか。その後お化け屋敷で、最後に観覧車です………ふっ」
「なんだ今の笑いは。観覧車か⁉︎観覧車を馬鹿にしているのか⁉︎」
「何でそんな観覧車推しなんですか!」
お互いにガルルルル、と喧嘩をしていたが、周りの視線にハッと我に返った
だんだん恥ずかしさが込み上げて来て、いつの間にか食べ終わっていたトレイをそそくさと返しに行って退散する
綺麗な石畳の道を歩きながら彼女はふうっと溜息をついた
「まったく、楓くんのせいで恥をかいてしまいました。どうしてくれるんですか?」
「あれは確実に君が悪い」
何やら第二ラウンドが始まりそうな雰囲気の中、突然、僕達の頭上から悲鳴が聞こえた
驚いて咄嗟に顔を上げた僕の目に映ったのは凄まじい高さから凄まじい速さで落ちる赤い車体。乗客の悲鳴がよく響いている
実物を見て顔が引きつっている僕の肩に彼女がポン、と手を置かれた。そしてニッコリと微笑む
…何故だろうか、今の僕には彼女が死神にしか見えなくなってきた
心なしか辺りが涼しいような気さえする。あれ、おかしいな?この周辺に噴水とか無かった気がするんだがな?
「じゃあ、いきましょうか」
「七草さん?…え、あれじゃないよね七草さん?あの隣の小さなコースターたよね七草さん?ーーえっ、ちょっと待って引っ張らないで⁉︎今行ったら確実に、確実に吐いちゃうよ⁉︎ねぇ七草さんってば!!!七草さーーーんっ!???」
楽しげに、しかしその手でズルズルと高校生男子を引きずっている少女、そして引きずられながら必死の形相で叫んでいる涙目の少年
…あれ、デジャブだ
その少年の絶叫は再び聞こえてきた歓喜と恐怖の入り混じった悲鳴に掻き消された
あの夏に咲いた花は 折本りあん @rian1108
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