第4話 初めてのデート(?)
翌日、僕は久し振りに休日に外出した
念の為五分前行動というわけで早めに来てみたが、あまりの人の多さに辟易してしまう
昨日、図書室でただ本を読んでいた僕はまさかこんな事になるとは思わなかっただろう
今ならまだ間に合うぞ。逃げろ、今すぐ逃げるんだ頼むから
頭の中で過去の自分へ忠告を飛ばしていると、目の端に走って来ている彼女が見えた。
すっと何事もなかったように澄まし顔をする
昨日の制服も初めてだとはいえ、初めて見る彼女の私服は水色のワンピースに白いサンダルに小さなペンダントという女の子らしいものだった
対して僕の格好はTシャツにジーンズというラフな服装をしている
…だって、服を考えるとか面倒じゃないか
僕の所まで走って来て息を荒げている彼女の息が整うまで待ってあげる。随分とキツそうだが、大丈夫だろうか
しばらく経つと彼女は輝かんばかりの笑顔で何故か敬礼をした
「いやぁ、お待たせしました!ここまでに全ての信号につかまり、人混みに流され、ひったくりに正面からぶつかったりと色々あってですね…」
「…僕はどんなリアクションをすればいいんだよ」
「そこは『いや、待ってないよ。今来たところさ』とカッコよく女の子を気遣う場面ではないのですか?」
「それにはその後の話が衝撃的すぎて無理」
ここでその台詞を吐ける男がいたら拍手と共に勇者の称号を送ろう。僕のなんかでよければ、だが
「それじゃあ行きましょうか!」
「今日は何処にいくんだ?場所は?」
「にしても今日も暑いですねー。異常気象というやつでしょうか?雪でも降るといいんですがねぇ」
「…うん、そーだね」
どうやら僕の意見は完全に封殺されるようだ
…しかしもう慣れた。まだ1日しか経っていないが
そこからバスに乗り込み、十分ほど揺られることになった。揺られている間、目的地の場所は大体予想がついた。カップルや家族連れがどんどん乗り込んでくるからだ。問題は、今日が夏休み1日目という事。何処でもそうだが、この時期は様々な場所で人が溢れかえる、…今みたいに。僕が今鏡を覗いたら死人のような真っ青な顔が映ることだろう
それとは反対に、近づくにつれて彼女からはワクワク感が溢れ出てくる。そして着くと同時に速攻で二人分のバス代を払って外に飛び出した。慌てて自分の財布を出そうとするが目の前の光景に言葉を失う
「さぁさぁさぁ着きましたよ楓くん!
これこそ我が地元が誇る一大テーマパーク、『ドリームランド』です!」
やけにハイテンションな彼女が横に、周りには他人の壁。人見知りを確実に倒しに来ている。僕が何をしたっていうんだ
それにしても、直訳すると……これは、某テーマパークは大丈夫なのだろうか
真っ青な顔色からだんだん土気色、そして白くなってゆく僕を放置し、いつのまにやら彼女の手には二枚のチケットが
「…ちょ、と、待って。自分のは…自分で払うよ。いくらだった…?」
「ええ〜私がちょっと強引に連れて着ちゃったし、別にいいですよ?」
「……」
僕が息も絶え絶えに問うと彼女は手をひらひらさせちて言った
ここは無理矢理にでも払うべきなのだろうが…何故だろうか。彼女の言葉に納得してしまった
しかし、僕も一応男だ。遠くに飛び去って行きそうな意地を捕まえ、もう一度言ってみる
「いや、やっぱり悪いし、自分で出すよ」
「じゃあ、お礼はほっぺにチューしてくれたらいいで」
速攻で財布から五千円札を抜き出し、彼女の手に叩きつける。少し多いかもしれないが、背に腹は変えられない
そんなに…⁉︎と軽くショックを受けている彼女をよそに僕はほっと安堵の息を吐いた
「まったく………まぁいいです。今日は目一杯、付き合ってもらいますから!」
その言葉に僕は現実を思い出し、思わず手にしていた財布を落としてしまう。そうだ、僕は今からこの人の波の中に入らないと行けないのだ
回復しかけていた顔色が再び悪くなってゆく
そして、スキップしている少女とその子に引っ張られている死人のような少年は、夢の国へと足を踏み入れた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます