第3話 帰り道に
あの後、僕達は一緒に帰ることになった
僕は一人で帰ろうとしたのだが、彼女が一緒に帰りましょーよーと付きまとってきたのだ
運動場からは野球部やサッカー部などの運動部の声が聞こえた
トントンと靴を鳴らしつつ靴箱をでると射してきた西日の眩しさについ手で遮ってしまう
「うわぁー!今日は綺麗な夕日ですねー!」
写真撮っちゃいましょう!と彼女はいそいそとバッグからカメラを取り出し、パシャリとシャッターを切った
ニコニコして撮った写真を眺めながら歩く
そのまま電柱にでもぶつかれば注意するようになるのだろうが
僕達は数歩分離れて歩き始めた
『…ちゃんと前を見ないと転ぶぞ』
「忠告ありがとうございます!心配してくれているんですか?」
「感謝してる割にはやめないんだね。もうそのまま何かにぶつかれば?」
「なんか、人から言われたらやめたくなくなりますよね」
軽口の応酬をしていると彼女が不意に振り向いてパシャリともう一枚撮った。そのレンズは何故か僕を向いている
彼女は面白そうにニヤニヤと笑っている
その顔が妙に癪に触って、僕は顔を顰めた
「それに君じゃなくて、雪って呼んでくださいよー。あと、楓くん…」
「…なんだよ」
「今日は質問、しなくていいんですか?」
「…へ?」
首を傾げ、頭の中でゆっくりと彼女の言葉を反芻する
そういえば図書室で質問は1日一回だとか何とか言っていた気がする
したい質問なら山ほどある
ただ、逆に多すぎて一つに絞ることができないのだ
まぁ1日目だし、こんなものでいいだろう
「…君は、どうして僕を選んだんだ?」
「これはあれですか。付き合って暫く経ったら『ねぇねぇ私のどこが好き?』なんて言って困らせる典型的なやつですか。全く…まだ一時間も経ってないというのに…困った人ですねー」
「そんな事は誰も言ってない!」
顔を盛大に引きつらせる僕とは対照的に、彼女はにしし、と笑っている
…楽しそうで何よりだ
「そうですねー、楓くんに告白した理由は…
…放課後歩いてたら丁度見かけたので」
「そんな適当な理由だったのか⁉︎」
「冗談です」
どうして殆ど表情を変えずにこんなにスラスラと嘘をつけるのだろうか
僕は溜息をつきながら、楽しげにスキップしている彼女に視線をやった
そのままジト目で睨んでやる
とっとと言え、と目で告げると彼女は渋々といった風に話し始めた
「そりゃあ一目惚れですよー。楓くんを見た瞬間に呼吸が止まって時間も止まって心なしか背後にはキラキラとしたエフェクトが……
…キャッ」
「漫画かよ。キャッじゃなくて、真面目に話してくれ」
「疑うだなんて酷い!本当ですよー私は何だかんだ言いつつも結局はいいことしちゃう楓くんに一目惚れしたんです。いわゆる、ツ・ン・デ………」
「それ以上言ったら僕は此処で君と別れる」
「そんな殺生な⁉︎」
そんなやり取りをしているうちに家の近くのT字路に着いた
取り敢えず質問には答えてもらったし、まぁよしとしよう
僕が右に曲がろうとすると彼女は左に曲がろうとする。本当に残念ながら、彼女とはここまでのようだ。…本当に残念だけれど
「それじゃまた明日」
「あっ、ちょっと待って下さい」
振り返るなりダッシュで駆け出そうとする僕は彼女の高めの声に止められる。…くそう、勝手に足が止まってしまうんだ。この足が!
仕方ないので振り返って相手をしてあげる
「どうかしたの?」
「明日、暇ですか?」
「…君には課題っていう概念は無いの?」
「じゃあ明日!十時に駅に来てください!来なかったら…覚悟しててくださいね?」
どうやら無いらしかった
「…はい」
押し殺したような声しか出なかった。自分が嘘が苦手なのは自分が一番よく知っている。一瞬しらばっくれようとも思ったが、一体何をされるんだろうと体を震わせ、無駄な抵抗は諦めた
…それに、こんなにキラキラした顔で言われたら断っても罪悪感しかない
それではまた明日!と元気に走り去っていく彼女の後ろ姿に、僕は苦笑しか出なかった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます