Gifted 短編集
志田 新平
露出狂 出没ス
十月十一日、月曜日。登校するのにも肌寒くなってきた頃、俺、日向真希時(ひゅうがまきと)は学ランに身を包み、秋風に縮こまっていた。
軽くランニングしながら火英村のバス停まで行き、「風善寺前」でバスを降りる。
実際、「風善寺前」と言っても、五分は歩かないと風善寺にはつかないのだが、それは些末な問題に過ぎない。
「マキト、おっす」
「……凛ノ助、うっす」
風善寺の前で顔馴染みの陣内凛ノ助(じんのうち りんのすけ)に出会った。
「……凛ノ助、知ってるか、最近この辺で露出狂が出没するらしいんだよね」
俺たちは並んで歩きながら喋りだす。
「ほう、それは穏やかな話では無いな。全く世の中には信じられない行動をする者がいるのだな」
「なあ凛ノ助、俺は思うんだけどさ」
俺は決意を固めて言う。
「もしかしてお前が犯人じゃないのか?」
「……マキト、言いがかりは寄せ。いかに俺が変態として名が通っているからと言って――」
「凛ノ助、本当の事を言ってくれ」
俺は真摯な眼差しで凛ノ助を一瞥する。
しばしの間、凛ノ助は押し黙った。そしておもむろに口を開く。
「………………なんで、分かった?」
俺は一度深呼吸して、新鮮な空気を肺の中に溜める。
そうしてからありったけの大声でツッコんだ。
「たった今お前が全裸だからだよ!!!」
「これは違うんだマキトッ。俺は脱ごうと思って脱いだんじゃない! ほらお前だって経験あるだろ。学校に制服着てったと思ったらパジャマだったみたいな些細な間違いが! そのパジャマと勘違いするパターンが今回はたまたま全裸だったんだ!」
「あー、そういう経験あるあるねーよっ!」
「いや待てマキト。実はこれは裸の上から肌色の『裸』を模したボディペイントをしてあるのだ。だから厳密には全裸じゃない!」
「大雑把には裸なんだよ! 誰がどう見てもアウチなの!」
「マキト、良く考えてみろ? 何故、裸はいけないことなのだ。人間、皆生まれて来た赤ん坊の時は裸ではないか。そう、裸というのは人間が本来あるべき姿。知恵の実を齧ったアダムとイブの如く恥じらう必要は無いんだ。裸を否定するというのは赤ん坊を否定すること――ひいては人間そのものを否定するという愚行に繋が……」
「……あ、もしもし警察ですか?」
凛ノ助は警察に連行された。今月に入って三度目の犯行だと言う。
……ちょっと凛ノ助との交友関係を見直した方が良いかもしれない……。
Gifted 短編集 志田 新平 @shida-mutunokami-sinnpei
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