第23話正体不明のゲームプレイヤーと急転する恋のご関係

 りつなが帰った後、リビングで寛いでいたろくの姉は心にひっかかっている疑問を唐突に弟にぶつけた。


「ろく、お前も知ってんだろ。国内1位の伝説プレイヤー」

「知ってるよ。E・ブルーだろう。勝率1位で無敗らしいね。E・ブルーがどうかしたの?」

「なぜあいつは毎度代表を棄権するのか、気になるんだ。おかげで暫定的に4位の私が代表になれるんだけどよ。本来、代表に選出されるのは上位3位までだぜ」

「姉さんはおこぼれで代表になってるだけだからね。運がいいよ」


 とりたてて問題とは思わないろくに対し、姉の方は深刻に感じている。


「おこぼれでの代表はやっぱ悔しいんだわ。2位と3位とは順位が変動しても、1位だけはずっとE・ブルーなんだ」

「なんだっけ、E・ブルーAI説だっけかな。あまりにも強すぎるから、もはや人間ではないのではないかっていう人もいるよね」

「そのE・ブルーがここ一週間ログインをしていないらしいんだ」

「本当かい?」

「九分九厘、本当だ」


 ろくは驚愕に言葉もない。

 姉は不敗伝説のプレイヤーに強い対抗心を馳せると同時に、いなくなってしまうのではと危ぶみも無意識に覚えた。



 思いもかけないエリカさんの短い台詞を、俺は意識的に聞き流してしまいそうだった。

 甘い言葉でもない、厳しい叱責でもない、なんと表現するのが適切か? 自分の語彙が貧弱なことを思い知らされた。

 傍目に見れば、その短い台詞を投じられた俺は幸せ者だろう。しかし、突然過ぎたのだ。

 突然だった理由をエリカさんに訊いた。でも、俺を目視するのも憚られる様子で顔を逸らし黙していた。

 俺は継ぐ言葉に逡巡した。何か間を持たせる。

 口を開いたが、エリカさんと動作が重なった。お互いに目線を外した。


「なぜ俺なんです?」

「……聞いちゃダメ」

「ダメって言われても、俺には自分がなんでこんなにも狼狽えているかわからないんです」


 エリカさんはぽつりと言った。


「本当にわからないの? もう一回言わないとわからない?」

「突然の事で頭が混乱してるんです」

「もっと大きい声で言わないとダメ?」

「そんなことはないですけど、聞こえてますけど、わけがわからないんです」


 エリカさんは一息間を入れて、こう返す。


「一度口に出すと、その後は迷わず何度でも言葉にできる。だから、次は大声で言うよ?」


 息を勢いよく吸い込み始めたので、慌てて止める。


「待った待った。今ここで返事をすれば、いいんですか?」

「そう、察しがいい」


 その通りだ、と頷かれた。

 俺は一呼吸置いて、返事を述べる。

 ――――――――。

 ――――――。

 ――――。

 ――。

 

「ぼうっとしてる」


 俺は弾かれたように丸テーブルの向かいに座るエリカさんを見た。

 カフェテラスの一隅の席、頭上のパラソルが日照を遮って影を作り、その下でエリカさんが微かに笑った。


「デート中にぼうっとされる。ちょっと悲しい」


 悲しいと口では言うが、表情は随分晴れやかだ。

 

「私と陸人の初デート。記念すべき日」

「そんな大層に言うこともないですよ」

「それはダメ。二回目、三回目のデートより初回のデートは大事で思い出に残る」


 エリカさんとカフェテラスで一緒のテーブルについている、俺はこれがデートだよ認めよう。なぜなら今の俺はマネージャーを越えて彼氏なのだからな。

 世の中、不思議なことがたくさん起こる。

 昨日までの関係が進展なのか、急変なのか、とりあえず様変わりした。

 目の前の笑顔が自分に向けられていることに、まだ実感が湧かないんだ。俺は。


 

 




※諸連絡

 作者の勝手ではありますが、この作品はこの話で打ち切りを考えております。本作品は物語の結末を考えただけで曖昧に始めてしまったので、このような忸怩たる連絡をすることになってしまいました。

 ですが本作の完結を希望する方がいましたら、ご面倒をおかけしますがコメントに一言書き込んでいただけると、作者は自身を奮い起こし筆を持ち直させていただきます。



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俺の妹が知らぬ間にネットでグラドルやってたんですけど ねくすとすとーりー♡ 青キング(Aoking) @112428

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