65 ややこしい透明な身体を追う「カカフカカ」。
前回、男性の身体は透明で、勃起している時(痛みを感じている時)にしか身体を意識できない、という話を書きました。
これは
――要するにペニスしかないんです。精神分析的には「ファルス」(ペニスの象徴)ですね。ペニスがあるかわりに体はない。
「六つの星星 川上未映子対談集」川上未映子×斉藤環より
ということになります。
男性は男性器でしか物を考えられない、というような批判を聞くことがあります。それは的を得ているんでしょう。意識できる身体が男性器しかないのですから。
って、滅茶苦茶不自由な身体だなぁ、男って。
その上、勃起する男性器は恐怖の対象になる、と書いたのは確か、評論家の小谷野敦だったと記憶しています。
以前、図書館で借りた本の為、記憶だけで書きます。初期のヘミングウェイの小説に勃起不全になった男の小説があって、そこでは唯一、男と女の間で友情が成立する、というような書き方をされていました。
男女が二人密室の部屋にいる時、女性は男性の勃起した男性器(暴力)に怯え、男性と男性であっても相手がゲイだった場合、やはりそれに恐れる。
みたいな話だったと記憶しています。
何にしても健やかな人間関係に勃起した男性器は邪魔、というのが共通認識のようです。
それはそうなのかも知れないけど、今のご時世に異性と二人きりになったら、することはするでしょ? ってスタンスの男性はさすがに少なくなったんじゃないかな、と思っています。
ちなみに斉藤環は以下のようなことも最初に引用した対談で語っています。
――(ペニスは)自分の身体であると同時に、決して自分のものにならないような、空虚で象徴的な器官なんです。自分にとっても一種の他者であって、これは操縦するだけのものではなく、むしろ自分を操縦する別の主体みたいな位置づけになるわけです。
ペニスは一種の他者であって、むしろ自分を操縦する別の主体だ、と。
けれど、それ(一種の他者)を通してしか、男性は自分の身体を意識できない。この他者である身体を巡った物語があったので、今回はそれを紹介したいと思います。
石田拓実「カカフカカ」です。
少女漫画なのですが、ネカフェで偶然手に取って、その日に新刊まで読み、次の日には本屋で買い求めるくらい僕はハマりました。
タイトルの意味は「可か(カカ)不可か(フカカ)」とのことです。
あらすじを単行本一巻の後ろに求めると、以下のようなものになります。
――就活に挫折し
現在フリーターの寺田亜希(24歳)は、
同棲していた彼氏にフラれ、
友人の紹介でシェアハウスで暮らすことに。
そこで再会したのは、中学の同級生で、
初カレ兼はじめて「した」相手・本行智也だった。
ここ2年ほど「たたない」という彼だが、
亜希には偶然接触したところなぜか反応が!
絶対へんなことはしないという約束で、
亜希は協力を求められて……!?
です。
少女漫画らしい設定だな、と思うのは中学の同級生で初カレ兼はじめて「した」相手が偶然、シェアハウスのメンバーの一人だった、という展開。
で、その彼は勃起不全だったが、主人公である女の子に対しては反応した、と。
視点をこの男の子、本行智也に移して僕は読んでいたのですが、これは先ほど引用した「一種の他者であって、むしろ自分を操縦する別の主体」を彼が寺田亜希の身体を通して探そうとする物語なんです。
ちなみに本行智也は小説家(ライトノベル作家っぽい)で、「たたなく」なった2年前から一切小説を書くことができなくなっています。それもあって、寺田亜希に協力を求めるのですが、「たたなく」なることで現実的な問題が起こる、という点で、男性の透明な身体のややこしい部分がしっかりと描かれているなぁ、と思います。
もちろん女性は女性で、身体的なややこしい部分を持っていると思うのですが、ややこしいベクトルが違うという意味で、うーむという気持ちになります。
生きるってことは、ややこしい部分を抱え込むってことなのかな?
相変わらずの、在り来たりな結論ですけれども。
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