39 2012年当時のお勧め小説、コメント付き。
お勧め小説を教えてください。
そう尋ねられた時、僕はくそ真面目に考え込んでしまう人間です。それは過去も変わらず、USBを整理していると2012年の原稿が出てきました。
タイトルは「お勧め小説五冊のタイトルをあげなさい」でした。
内容は読めたものじゃなかったのですが、選んだ本に関しては納得のできるものでした。その為、今回それを書きなおして掲載したいと思います。
まず、2012年の僕は五冊の小説を自分が憧れた小説、という理由で選ぼうとしています。
「僕がこれまで想い焦がれてきた作家たちの小説を厳選し、他人に披露するのだ。それは大小あっても、僕のエゴイズムな感情が浮き出る作業に感じる」
は、2012年の僕の文章。
エゴイズムって、僕はどのような立場でこんな文章を書いたのだろうか。当時の僕は本当に空っぽで、地に足のついていない人間だった気がします。
まるで無様に地面に転がった風船のような人間です。
ふわふわと空を飛ぶこともできず、けれど、地面にべったりと張り付くこともできない。中途半端な人間。
そんな僕が選んだ五冊は、個人的にはまともなタイトルだったので、当時の文章にツッコミ入れつつ紹介していきたいと思います。
・村上春樹「羊をめぐる冒険」。
高校二年か三年ぐらいに読んで現在まで一度も読み返してはいないのだけど、それでも記憶にべったりと張り付いている。それは続編である「ダンス・ダンス・ダンス」を何回も読み返したからかも知れないが、お勧め、厳選、という考えの元からあげるタイトルは「羊をめぐる冒険」に思えた。一言で趣味と言えるだろう。が、単純に「羊をめぐる冒険」を読まずに、「ダンス・ダンス・ダンス」を読んでも、深く感動出来ないだろう、という気持ちが強い。
【郷倉 コメント】
うぎゃぁ!
――一言で趣味と言えるだろう。
って、だから、お前はどんな立場で語ってんだよ!
痛いなぁ、もう。
文章も気取りすぎ。
でも、「羊をめぐる冒険」は名作です。当時から二年後くらいに、ふと読み返して「面白すぎんだろ!」と僕は叫びます。
・吉行淳之介「暗室」。
一冊目にあげた村上春樹よりも前に活躍されていた作家だ(丁度、村上春樹がデビューした群像新人賞の当時の選考委員の一人は吉行淳之介)。「夕暮れまで」が吉行淳之介の到達点だ、という解説を何かで読んだ事があるが、個人的な好みとして、どこか不器用さが残る「暗室」を選びたい。一つの小説として見た時、「夕暮れまで」の完成度はとても高い。それに器用だ。けれど、それによって初期の吉行淳之介っぽさが少し薄れたように思った。
【郷倉 コメント】
出た―!
俺知ってますよ系のマウント文章!
やめようぜ、マジで。
初期の吉行淳之介っぽさって、お前は吉行淳之介の何なんだよ。辛いなぁ。
ちなみに「夕暮れまで」の冒頭の綺麗さは、ちょっと類を見ないぐらいのレベルです。「暗室」ラストが印象的です。
・三浦哲郎「拳銃と十五の短編」。
芥川賞を取った「忍ぶ川」は私小説で、「拳銃と十五の短編」も私小説的な個所が幾つかある。が、三浦哲郎の書きわけは上手く、二つは別々の作品として成り立っている。「忍ぶ川」のテーマが結婚であるなら、「拳銃と十五の短編」は家族である。戦後間もない話を常に書いてはいるが、テーマは現代でも十分通用するし、現代だからこそ、刺さる文が幾つか目立った。
【郷倉 コメント】
テーマは現代でも……
って、やめよ。テーマって書いとけば賢く見えるし、何か書いた気になる、ってのが丸見えだから!
そんな訳ねぇから!
三浦哲郎は私小説作家なのですが、そのエピソードには間違いようのないフィクションが混ざっています。具体的に言うとそれは書かれた台詞です。
三浦哲郎自身が喋る言葉は方言です。が、書かれる小説は常に標準語です。作られた私小説の凄味こそ、三浦哲郎の一連の小説です。
・河野多恵子「骨の肉」。
掌編と言っていいほど短い作品だが、鮮烈さを重視すれば、「骨の肉」となった。デビュー作「幼児狩り」と悩んだが、僕は個人的に、河野多恵子作品は、男に執着したものを好んだ。谷崎潤一郎に強く影響を受けたと言う河野多恵子の書く人間の執着具合は、やはり幼児よりも男に向いてこそだ、と僕は思う。正確には幼児を通して、男に執着している作品が多くあるのだが、「骨の肉」はそんな中で一番直接的に執着した作品だった。
【郷倉 コメント】
こいつ何も分かってねぇな。
河野多恵子の小説が何故、あれほど男(あるいは幼児)に執着するのか。それは結局のところ、執着する先に必ず自分がいるからなんだよ。
河野多恵子の文学は、最強のナルシズム小説なんだよ。
それ故に、「秘事」を読む僕らは最後の最後で、人生でこれほど涙したことがない、と思う程に泣いてしまった訳じゃないか。
・安岡章太郎「ガラスの靴」。
本当なら「海辺の光景」のラスト数行の凄まじさを押したいところではあるのだが、何よりその数行にたどり着くまでがしんどい。徹底したリアリズムな空気は無視する事を許さず、現実を容赦なく付きつけてくる。僕はまだ「海辺の光景」を許容し読みなおす力がない為、今回は「ガラスの靴」にした。デビュー作である「ガラスの靴」はモラトリアム小説と言える。そんな小説を書いた安岡章太郎が「海辺の光景」に辿りつくということに、僕は意味があったように思う。
【郷倉 コメント】
それは正しい。
今の僕も「海辺の光景」のラストの鳥肌が立つ数行について書ける気がしない。海辺の光景が戦後文学の到達点と言われる所以はあの数行にあるはずだけれど、その辺は江藤淳の「成熟と消失“母”の崩壊」が書いた感があるので、そちらを読みましょう。
多分、2012年の僕は「成熟と消失」を読んでいなかったはずだから。
※コメントを考えてみると辛辣にならざるおえなかったのは、自分の未熟さを直視したくないって言う気持ちがあったらでしょうね。
なら、エッセイにアップするのもどうかと思いますが、選ばれた作品は素晴しいので、それは紹介したい、という気持ちがありました。
上手い紹介にはなっていない気がするので、追々しっかりとした紹介をしていきたいと思います。
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